「じゃあ順平君、また明日!」
 そう言って、にこやかに手を振る綾時の隣に、最近少年がいることが普通になった。無口な彼は、綾時の挨拶が終わるまで、いつもじっと順平を見てくる。それが彼なりの挨拶らしい、と気付いたのも、またつい最近の話だ。
 たまには、三人で帰るのも良いだろうと思い、綾時と少年を誘おうとしていた。出鼻をくじかれた順平は口ごもり、あっさり去っていく二人の背を追いかけることも出来ないまま、行き場のない手をゆっくり下ろした。ちょっと寂しい。タイミングがずれたショックが未だ抜け切らない順平の肩を、後ろからやってきた友近が労うように叩いた。
「順平、ドンマイ」
「友近……」
 ぼーっと見やる先で、友近は顎に手を当てしかめっ面をしている。
「分かるぞ、お前の言いたいこと。あいつら最近仲良いよなー」
「いや、そういうことじゃ、」
「俺も凄くそう思う。仲良くなったと思ったら、あいつ話しかけてこないしさ」
 友近の言うあいつとは、少年のことだろう。確かに、一時期は友近と少年という組み合わせも見ていたが、最近はめっきり見なかった。
 だがそれを言うなら、順平なんて、放課後を一緒に過ごしたことなど殆どない。だからこそ、たまには三人で帰るのも、と思ったりしたのだが、残念ながらタイミングを逃してしまった。仕方がないので、一人でべらべら喋り続けている友近に付き合い、途中まで一緒に帰る事にする。こんな言い方をすると、友近が怒りそうだが。
 友近と別れ、寮へと向かう道すがら、順平はぼんやりと考えた。友近も言っていたけど、あいつらは仲良い。そしてその仲の良さは、順平の入れないものだった。
 綾時と仲良くなったのも、少年と仲良くなったのも、順平の方が早い。にも関わらず、あの二人はきっと余程波長があったのだろう、順平の入れない空気をいつの間にか作っていた。いや、正確には入りにくい、だろうか。きっと綾時に聞けば、「え?僕たちの間に入れない?まさかー」なんて、能天気な答えが返ってくる。
 そこで、順平は何故そんな風に思うんだろうか、とちょっと考えてみることにした。
 まず一つ目。あの少年が、綾時にはかなり気を許している。
 この間、ポータブルプレーヤーを二人で聞いているところを見かけた。二人の耳に入っているイヤホンを辿れば、たどり着くのは少年の手のひらに納まった、彼愛用のプレーヤー。順平はかなり衝撃を受けた。
 半年以上付き合ってきたが、その間一回も、少年と仲良く音楽を聞いたことなどなかった。それは何も順平ばかりではなく、大方の人間がそうらしい。だがその少年が、綾時とはいとも簡単に一つのイヤホンを仲良く半分ずつにして、どこか穏やかな表情で音楽を聴いているのである。これは順平でなくとも驚くだろう。
 次に二つ目。二人とも、順平がいる前でこそこそと話しては、親しげにくすくすと笑い合う。
 彼らが、決して順平を馬鹿にしているわけではない、ということは分かっている。彼らは、他人を馬鹿にして笑い合うような、そんな酷い人間ではない。きっと、純粋に何かが面白いのだろう。
 大抵は、綾時が少年に耳打ちをする。それも、ただ顔を耳に近づけるのではなく、首筋にすり寄るような感じだ。背の関係もあるのかもしれない。綾時に話しかけられた少年は、口元を緩めて綾時の身体を押しやる。
「望月、くすぐったい」
 それを見ていた順平は、やはり衝撃を受けた。しかも超ド級の衝撃だ。
 あの少年が、そんな何でもなさそうなことで、いとも簡単に笑みを零す。その笑みも、えらく綺麗なもので、思わず順平がドキッとしてしまうほどだ。勿論、順平が驚いたのはそれだけではない。彼らが醸し出す雰囲気、とでも言うのか、それが甘いということにも驚いた。同級生と内緒話をするぐらいで、あんな雰囲気になるものだろうか。
 そして最後。彼らは少し、身体の距離というものが近い。
 これはなかなか辛かった。二人とも、順平との身体の距離は拳三個分程開いているのに、お互いだけで並ぶと拳一個分程しか開けない。彼らが意識して、順平との身体の距離を開いている感じはなかったから、無意識にやっているらしい。そしてその無意識というものが、なかなか厄介なのだ。意識していたらやらないことも、無意識だとあっさりやってしまう。
 最初は、順平も新手の嫌がらせか何かかと思った。が、二人は全く何の他意もなさそうである。順平はそれに気付いた時から、気にすることを止めた。
 そこまで思いだし、順平は立ち止った。目の前はもう分寮だったが、あまりに思考に没頭しすぎて、全く目に入っていない。
「やっぱり、あの二人は仲良いよなぁ」
 一人、寮の扉の前でごちる。
 それは勿論喜ばしいことに違いなかったが、一抹の寂しさも感じる。それでも、暫くはあの二人の仲の良い様子を、ただ黙って見守ってやろうと考えた。そのうち、機が熟したら割って入ってやるのだ。
 その時順平は、少年と綾時が付き合っているなど、露とも考えなかった。後に、彼らが恋人同士であることに気付き、一人で動揺する未来など、知る由もない。









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相互記念にいただきました!綾主+順!
こんな素敵な小説書いていただけて、わたしは大変なことになりそうですどきどきどきどき

ありがとうございました!

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