喫茶シャガールで優雅なひととき。お気に入りのコーヒーに舌づつみを打ちつつ今日1日の疲れを癒やす。
…はずだったのだが。
予定は簡単に湾曲し、なぜか男2人でむさくるしいひとときを過ごしている。

どこから仕入れたか知らないが、俺がこの店に足げく通っていると知った綾時がぜひ行きたいとゴネにゴネて、結局一緒に行くハメになってしまった。多大なる好奇心は他人に多大なる迷惑をかけることもあるとこの帰国子女に教えたほうがいいのかもしれない。今度からは一人で行けと言いたい。

「ここの店員さんはみんな可愛いね」

花でも飛ばしそうな(いや、飛ばしている。俺には見える)笑顔で先からきょろきょろと目線を動かしているデコマフラーは実に落ち着きがない。友人として叱るべきだろうか。めんどくさい。

「きょろきょろしすぎ」
「いやぁ、みんな可愛いくて。あ、でも、君が一番可愛いよ!」
「バカだろ」

フェミニストバカ。相手を持ち上げる言葉も忘れない。しかし男の俺はまったく嬉しくない。それは女子にのみ効力を発揮するということも帰国子女君は知らないのか。
「君が一番可愛い」などと末恐ろしいことを言ってのけた当の本人は、相変わらず右へ左へ視線を動かし女性店員を常に視野に入れている。声をかけないだけマシだと思うべきか。
なんとなく気に食わない。もやもやする。一番が俺?馬鹿らしい。
手近にあった粉砂糖を五袋ほどひっつかみ、ビリッと一気に破って綾時のコーヒーにぶち込んでやった。それにすら気づかない。あぁ腹立たしい。
視界を女性で潤しようやくコーヒーを口にした綾時を煮え切らない思いで見つめていた。悔しいが様になっている。

「甘!?」

当たり前だ。五袋なんて俺でもごめんだ。
女子受けのいい顔が若干崩れる。崩れても、いい男はいい男なんだなとどこか別の視点から綾時を見ていた。

「砂糖入れたの君…だよね」
「他に誰がいる」
「ですよねー」



少年が非常に怒っていることは綾時にもよくわかった。目がいつも以上に据わっている。いつもならその目に見つめられただけでなぜだか心臓が跳ねるのだが、今は違う意味でドキドキしている。刺されそう。コーヒーの甘さが口の中で主張を繰り返す。
どうしてどうしてと考えたが、答えは簡単。友達そっちのけで女の子ばかり見てた僕が悪い。
しかしそれでこうも怒るものだろうか。今にも人を殺めそうな視線と砂糖が過剰投入されたコーヒーを交互に見やる。これはもしかしなくても、嫉妬。あ、ちょっと嬉しい。

「ご、ごめんね!」
「どうでもいい」
「コーヒーに砂糖入れられても気づかないなんて…」
「あのな…」

溜め息ひとつ。しまった。何か彼の気に触ることを言っただろうか。どうしよう。本気で嫌われる前に何か行動を起こさなければ。嫉妬してもらえたなどと喜んでいる場合ではない。彼に嫌われることだけは避けたかった。
ぐるぐるぐるぐる。名案は思いつかない。よぎるもの無し。脳は機能してないんじゃないか。何かないのか、望月綾時。
使い物にならない脳みそで思考を巡らす。コーヒーの中で揺れる僕はかなり酷い顔をしていた。
そんな僕を置いて、行動を起こしたのは彼のほうだった。

「それ、いじられたくなかったら」

たら?

「ずっとこっち見てればいいだろ」

カタン。カップを置く音がいやによく響く。
ひどい殺し文句だと、思った。
まるで恋人が駄々をこねる時に使われる台詞のよう。好き嫌いどころじゃない。ずっとこっち見ててだなんて!
彼はさも当然のように言ってのけたが、こちらとしては変に意識してしまう。無自覚って怖い。
でも、なんか恋人同士みたいだね、なんて言ったが最後。物凄く痛い何かが飛んでくるのは目に見えているので言うのは心の中だけにしておく。彼はそういう冗談には本気で怒るのだ。まぁ僕としては冗談半分本気半分で言っているのだけれど。

口に出せない変わりに、お言葉に甘えてジッと彼を見た。中性的な整った顔立ち。カップに口づける様がとても絵になる。伏せられた目元には睫の影。常日頃から思ってはいるが、綺麗な人である。
浮上するまぶた。カチリと目が合う。今度は見すぎだバカと怒られてしまった。理不尽。でも可愛い。
仄かに頬を染めた少年を見て幸せな気分になりながら、甘すぎるコーヒーを味わった。






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ゆつは様リク・友達以上恋人未満な綾主でした。
リクに添えているか微妙ではありますが…;

相互ありがとうございました!

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