僕は常々、彼の中で眠りたいと思っていた。あるいは同化したいと。その願望は肉体的にも精神的にも当てはまる。肉体的願望はある程度は満たされる。だが精神的にはどうだ。
今は布で包まれている薄い皮膚、その膜の下の赤黒い固体、そのさらに最奥まで掘り崩した先に彼の精神があるのかと問われれば答えは否。反対側が見える通気口を作り上げるだけである。精神に触れることは不可能。僕は真の意味で彼と同一になることはできないのだ。それが酷く悔しい。
ならばせめて肉体だけでもと貪るように身体をつなぎ合わせた。彼の中で眠れたならば。

僕はこの無垢で凛とした青に心奪われていた。ある種の恋であり、しかし恋と呼べるほど生易しいものではない。殺意にも似た感情。いつしかそれは同化願望へと変わり、気づけば彼を組み敷いていた。
口づけて、愛をささやく。美しい顔にキスを降らす。対する彼は虚ろな瞳で僕を受け入れた。無感動に、そうなるとわかっていたかのように。
僕はいい気になって何度も抱いた。かわいそうに、彼は僕の欲望のためにただ涙を流す。感情は欠落。同化願望に身を委ねる。彼が心身共に疲れ果てたあたりでようやく罵声を浴びた。どうせひとつにはなれないと言われた気がした。そんなこと、わかっている。でも僕は君の中にいたい。

その彼は今なお、かすかに寝息を立てている。人形のように小綺麗な彼の瞼に唇を落とし髪を撫でた。ピクリとも動かない。物言わぬ死体はその目に僕を映さない。
彼は死者ではない。けれど僕に全く興味を抱かず眠り続けるのであれば、死者であるも同然。人の形をした棺は脆く、簡単に破ることができるのに。膜の下に精神があったらならばすぐにでも引きずり出して僕を映させ、僕と混ぜて生きるのに。ねぇ、どうか中で眠らせて。

下腹部に手を置き爪をたてる。綺麗な死人の顔が歪む。

「なに」

死人は起きる。かすれた死者の産声は無機質。僕を翻弄してやまない彼独特の低音が内部をざわめかせた。

「ちょっと、ね」

人間の体で心地よい寝台のある場所ならば下腹部であろう。無いならば、腹を裂いて人工的に空洞を。僕が入れてしまうほどのものを。ゆらゆらと赤子の疑似体験。
さぞかし気持ちがいいに違いない。動脈、静脈、混ざり合う赤黒。心臓のポンプはひたすら羊水を流し出す。36度の液体に浸かって僕は快楽溺死。どこを見ても彼、彼、彼。すべて彼の一部。棺桶は彼の子宮。幸せに溺れる。

「綾時、痛い」
「ねぇ」
「だからなに」
「もっかい、しよ」
「なっ…ちょっと待て!」

腕の下で揺りかごが暴れた。
これほど彼を求めているのに、彼はそうでもないらしい。元より精神は一つではないから仕方のないことなのか。悲しきこと。胎内回帰願望はとどまることを知らない。

細い手首を押さえつけ、剥き出しの首筋に歯をたてる。愛は時として鋭利な刃になると僕らは身を持って経験した。白い身体に赤が散る。また涙がひとしずく。

疑似的同化を求めて再び彼を引き裂いた。

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