未明の静寂に包まれた町に二人分の足音が響いていた。風景は朝もやで曖昧。
先を歩く彼の背は掻き消えそうな青を纏っている。
異世界に見える街並みで、彼は変わらず綺麗であった。

「綾時」

彼が振り返る。長い坂の頂からこちらを見ている。浸透する声が僕を押す。
駆け足しでそこまで行くと、急がなくていいと笑っていた。

「ほら」

細い指が示す先、町が一望できる高台で、僕は感嘆の言葉を吐き出す。
地の先端にそれはいた。夜に別れを告げながら現れた、薄い彩色のグラデーション。
これから目覚めるこの町は大層輝いていた。

「太陽、」

空が淡い橙色を寄せている。
知らず触れていた互いの手が指々を絡ませながら重なっていく。感動の共有、と人は言うだろうか。どちらからでもなく互いの存在を確認する。
二人きりですべてを分かち合う僕らを、太陽は静かに照らしている。

「綺麗だろ」
「うん」

彼が笑う。ふわふわとした浮遊感。この感情をなんとしよう。指をほどきたくないと思う。
朝日のぬくもりは、繋いだ手のぬくもりと重なって僕の中に緩やかに着地する。

「ありがとう」

1日のはじまり、今日の誕生を彼と見た。彼とはじまり彼と終わる1日。
彼と見れたことを何よりも僕の心は歓迎していた。
ゆっくりゆっくりと町を染め上げる光の軌跡。影が零れる。夜が消える。
眩しさが僕の目で輝きを主張する。

「どういたしまして」

彼は目に光を灯しながら照れくさげに僕に笑いかけた。
彼が朝日に照らされ見とれるほどに美しく儚いものだから、離れぬようにと強く手を握った。

そして僕は、彼がいるからこそ世界はより愛おしく煌めいて見えるのだと知った。





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