長編、企画 | ナノ

何をしようか



夏休みが明けるとすぐに、青葉城西高校は秋の文化祭に向けて動き始める。

LHRの時間になると文化祭実行委員が立ち上がり、学校側で決められた文化祭のテーマを発表すると同時に、クラスで何をするか皆に意見を求めた。

今年の文化祭のテーマは「エコロジー」だ。

「やっぱ王道のカフェとかやりたーい!」
「でもそれだとエコロジーをどこに取り入れるんだ?」
「ユーグレナとか入れればいいんじゃない?でもそれだと高くつくかなぁ?」
「ミドリムシ…確かにちょっと興味あるけどな。」
「お化け屋敷でいいじゃん!冷房いらずのエコってことで!」
「いや、でも文化祭本番は秋だよ。」

実行委員の一人が、出てきた意見を次々に黒板に書き出していく。
やはり人気なのは「カフェ」や「屋台」の食べ物系だけど、毎年どこかしらカブるクラスがあるので後で調整が入る可能性が高いみたい。

私も何か意見を出そうと思うが、なかなかテーマに沿ったモノが浮かばなくて。
去年は舞台だったけどあまり関わらないようにしていたし、今年は積極的に参加したいなとは思っている。

様々な意見が飛び交う中、梅木多さんが「はいっ」と手を真っ直ぐ天井に伸ばした。

「フリマとかどうかな?皆で服とか小物持ち寄って、教室で販売するの。」

教室内が一瞬シンと静かになる中、梅木多さんが自信あり気に言葉を続けた。

「あとただ売るだけじゃなくて、売り物を使って希望者を変身させるのってどうかな?」
「変身??」
「そう!似合いそうな洋服を一式提案して、髪とメイクもするの!それで気に入ってもらえたらセットで買ってもらえるし、普段とは違う魅力に気づいてもらおう的な!」

梅木多さんの声に少し周りがざわつき始める。
笑顔だった梅木多さんが、少し真剣な顔で皆を見回した。

「これは個人的な事なんだけど、私将来メイクアップアーティスト志望だからやらせてもらえたら嬉しい。他に美容師になりたい子もいるし、それに跳子ちゃんにはスタイリストやってもらって、とか。」
『えっ?!』

突然出てきた自分の名前にビックリして、思わず声を出してしまった。
皆が振り返ってこちらを見るので、ちょっと恥ずかしくなって肩を縮める。

でも確かにやらせてもらえるのならいい経験になりそうだし、なかなかそんな機会はない。
私も意を決して声をあげた。

『−私もできたら、やらせてもらいたいな。すごく勉強になるし。』

徐々に教室がざわめきを取り戻しはじめると、皆が梅木多さんの意見にのりはじめた。

「…それいいかも。ちょっと面白そう。」
「文句なしにエコだよねー。リサイクル!」


結局それ以上案は出ず、多数決の結果うちのクラスはフリマで決定となった。
チャイムと共にガタガタと椅子の音が響き始める教室で、及川くんが大きく伸びながらあくびをする。

「もう文化祭かぁ。一年って早いなぁ。」
「俺らは春高予選もあるからあんま準備とか手伝えねぇんだよな。」
『でもフリマだと事前準備そんなに必要ないんじゃないかな?部活の人は考慮してくれるって言ってたし、期限までに売り物を提供してくれれば大丈夫だと思うよ。』

少し申し訳なさそうな隣の席の岩泉くんに、私は自然と言葉を返した。

久しぶりに交わす会話に、あの事件が頭を過って実はちょっと緊張して。
少し声が上ずってしまった気もするけど、比較的普通に話せて人知れずホッとする。

「それなら助かるけどよ。売りモンになるようなんあったっけかな。」
「服とか靴とかでいいよね。サイズ小さくなったのとかあるし。」
『…なんか及川くんが出したモノって、別の意味で高値がつきそう…。』
「何何跳子ちゃん!プレミア商品ってことー?いやぁそれほどでもー。」
「…なんか腹立つな。殴っとくか。」
「痛いよ岩ちゃん!言いながらもう手出てるから!」

相変わらずの軽快なやり取りを見て思わず笑ってしまう。
すると殴られた及川くんが恨みがましい目つきで私を見てきたから、慌てて視線を逸らした。

「要はいらねーもんでいいのか?だったら毎年誕生日にコイツらからもらう変な柄のパンツとかいらねんだけど。」
「ひどっ!プレゼント売りに出すとか岩ちゃん鬼すぎ!」
「あぁ?!だったらもっと使える柄よこせっつんだよ!」
『…それ以前に、それ(パンツ)はフリマで売っちゃダメだと思う…。』

岩泉くんのパンツ…!
脳内が一瞬でそんな単語で埋め尽くされそうになるのは決して私がおかしいわけじゃないと思う。
恋する乙女は皆変態って聞いたことあるし…。

目の前でどんどんと論点のズレていく二人に、私が小さく突っ込めば、二人の言い争いがピタリと止まった。
…もしかして本気で持ってくるつもりだったんだろうか?

そんな風に二人を見ていたら、ふぅと息をついて体勢を立て直した及川くんが私に向けてニッコリと微笑んだ。

「それにしても…本当に前向きになったねー跳子ちゃん。」
「確かにな。参加どころかお前ありきの企画じゃねーか。大出世だな。」
『あ、うん。正直私もこんな機会もらえるなんて思ってなかったからビックリしたけど…やるからには頑張るよ!』

みなぎるやる気をガッツポーズに代えて二人に宣言すれば、岩泉くんも及川くんも嬉しそうに笑った。
両側から長い腕が伸びてきて、また私の髪をぐちゃぐちゃに混ぜる。

「ハハッ、いい心構えだな鈴木!頑張れよ!」
「跳子ちゃんのそういうとこ、好きだなー。」
『わっ!ちょっとやめてって!』

二人の手を必死に止めようとしたけれどもう遅い。
ボサボサになった髪を押さえながら、それでも私の顔は緩みっぱなし。
また一つ、これからの楽しみが増えた。


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