すくいあげたのは、
俺他に好きな子が出来たんだ、だからごめん。とあっさり言ってきた恋人と別れてから約一時間。
男心と秋の空なんて言うけれど、まさか身をもって知るとは。
一時間なんかでは傷心は癒えず、河原まで降りて橋の下で座り込んで一人グスグス泣いていたら。

「………………」
「………………」

どんぶらこっこ、どんぶらこと長髪のイケメンが流れてきました。
やけに真面目な顔で川の流れに逆らわずにゆっくりと流れていく。
あまりの出来事に一瞬助ける気にもならなかったけど私の視界から消える間際にしたどや顔がムカついたので追いかけて引き上げた。

「かたじけない……今の江戸にこのような親切な女子もいるのだな」
「いや、アナタのどや顔がムカついただけです」
「髪を拭くものまで…」
「それハンカチです。しかも小さいから髪の毛拭けてませんよ。つーか濡れてるからその長髪よけい鬱陶しい!」

もう肌寒いと感じる季節、濡れているし風邪を引かせてしまったらアレなのでそのへんの商店でタオルを買ってきた。そして気になっていた川で流れていたわけを聞いたら昔の友に投げ捨てられたとのこと。
自分を川に投げ捨てるような友って、友と言えるのだろうか。

「大変でしたね」

にしてもこの人どこかで見たことがある。
忘れてしまった知り合いというのでは無さそうだし街中ですれ違って偶然顔を覚えてしまったという感じに薄く覚えているのだ。

「…どうして目元が濡れている?」
「…えっ」

すっと目元を指で拭われて、顔が熱くなった。
近くで見るこの人はやっぱりイケメン、っていうか美形。
さら、と自然に私の髪をすく仕草にすごくドキドキする。

「む、こんなことをしてる場合ではないな。そろそろ行かねば。この恩はいつか会った時、必ず返そう」

立ち上がって、微笑を浮かべる彼の顔を見て胸の音が一際高鳴る。

「あ…の!な、名前は…」
「名前?」

彼はフッと笑ったあと答えた。

「キャプテンカツーラだ」
「嘘つけェェェ!」
「ほんの冗談だ。許せ。………桂小太郎という」
「桂、小太郎………」

私は彼の名前をしっかりと覚えた。

「あの、か、桂さ……あれ?」

追いかけようとしたらもう姿は見えなかった。

「また…会えますよね」

女心と秋の空なんて言うけれど、前の恋人のことなんてふっきれて、私はそんなことを呟いていた。
そして帰り道。

「え゙」

電柱に貼ってあった張り紙。
そこには桂さんの写真と下には衝撃の文字。
彼、指名手配犯でした。でも、好きになってからじゃもう全てが遅い。

title:31D

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