セーラー服と秘密結社 | ナノ


幻の幽霊車両を追え!9/9   

霧深い街の夜も更け、ビル群の灯りも疎らになる時刻。
静かな部屋の中で鳴り響く着信音。
こんな時刻にかけてくるあたり、相手はこちらと向こうの時差など全く気に留めていない様子が窺い知れる。通話をオンにすると電話の主の明るい声が聞こえた。

『もしもしスティーブンくん?どうも玉藻です!書類はそっちに届いたかしら?』

電話の相手は牙狩り日本支部長、玉藻。
名前の師であり天地流血製術の遣い手、牙狩りの古豪。
持つ肩書とは正反対に口調は気安さを感じさせるが、話す内容は安穏としたものではない。

「ええ、しっかり部下から受け取りました」

スティーブンは先日部下から提出された封筒を引き出しから取り出し、デスクに置いた。これは自分の部下に日本や日本支部で名前について調査をさせた時の報告書、のはずだった。見た時は部下と共に驚いたものだ。書面が全て取り替えられていたのだから。

『ふふ、驚かせてごめんね。クラウス君にお願いするか迷ったんだけど。彼ド直球な交渉以外無理だし胃が弱そうだし?』
「……どこまでもお見通しですか」

声色は努めて平静に、しかしスティーブンは心中で負けを悟る。下手に駆け引きや取引をすると命取りになりかねない。

『それで、お願いの進捗はどう?』
「今日"信頼できる奴”に任せましたよ」

デスクに置かれた書類の文章をなぞる様に目を落とす。
たった一枚の書類には簡素に一文が綴られていた。

-名前・名字のHL渡航目的について、ライブラに調査とその報告を命ずる。牙狩り日本支部長 玉藻-

『ふふっ、楽しみにしてるわね』

電話の向こうの無邪気な声だけが、人気のないオフィスにからりと響いた。

第20話 ― 幻の幽霊車両を追え! ―

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