セーラー服と秘密結社 | ナノ

幻の幽霊車両を追え!7/9   

セント・アラニアド中央病院、病室501号室。
入院患者名:レオナルド・ウォッチ。

陽の差し込む窓側のベッドを取り囲むように面会者が3人。
その内の1人、備え付けの小さな丸椅子に足を組んで腰掛けるスティーブンは事後処理班から受け取った報告書を読み上げている。声色は実に上機嫌だ。

「結果、行方不明者19名発見。協定違反のウスラバカ共3名と1機捕獲。まーほとんどバラバラだけど…立派なもんじゃないの?何より今日の今日まで存在すら知られてなかったレベルの幻術が白日の下になった。これが大きい。今頃どこもかしこも戦々恐々だろ、こっちあっち含めてね。それにジェレミアの件から芋づる式に検挙ときてる、おかげでHLPDにも恩を売れたよ」

パサリと自らの膝の上に調査書を置くと、スティーブンはそよ風が吹きそうな程爽やかな笑みをレオに向けた。

「万事解決、おめでとう!!」
「もごもごもごもごもごもごもご(いやいやいやいや。いやいやいやいやおめでとうっておめでたいですかこれそんな手放しで)」

身体中包帯でぐるぐる巻きの処置を施された満身創痍のレオナルドが苦肉のツッコミを入れた。
酸素マスクを装着しながらも必死で喋る少年を丸々無視してスティーブンは爽やかな笑顔のまま話を続ける。

「偉いぞ少年!!自力で脱出するその根性、僕は大いに評価したいね。これからもバリバリ突入頼むぜ!!――しかし、今回忘れちゃならないのが"奴"のお手柄だねえ。あらかじめザップには振ってあったのか?彼の警護」
「いや、それが」

クラウスはなんとも言えぬ渋面で打ち明けた。
厳つい巨躯に似合わずもじもじと落ち込む様は逆にいじらしささえ感じさせる。

「名前は快く承諾してくれたのだが…ザップには言下に断られていたのだ。私の不徳の致すところ。なので今回の件は僥倖としか言い様が無く…」
「はっはっはっは」

何でもかんでもくそ真面目に責任を感じているクラウスを、スティーブンは高らかに笑い飛ばした。心底不思議そうに目を丸くする表情が、更にスティーブンを笑わせる。

「………?」
「…いや悪い。だがクラウス。君はもう少し人心の掌握に小狡くなった方がいい。ザップが正面からそんな頼み方をされて素直に返事をすると思うか?」
「???」
「君や名前みたいに真正面から向き合ってくる相手にはどうしても天邪鬼になってしまうんだろう。奴から肯定の言葉が聞きたければ…そうだな弱味を握るとか」

スティーブンが爽やかな笑みで放った腹黒い発言にクラウスを除いた2名の空気が一瞬凍り付いた。不穏な空気を察知したスティーブンは直ぐ様笑顔で「ハハハ冗談だよ」と言ってのける。
レオは心中で「今のは本気だな…」と肝を冷やしつつ、実はザップが自分を助けてくれていた事を感謝しようと記憶を反芻した…が、ピザの強奪などのカツアゲまがいに愛人宅への足代わり、血法で脅しをかけられそうになった事など碌でもないことばかり脳裏に甦る。
現時点ではおよそ感謝できるような出来事は無いな、と改めて考え直した時レオはある事を思い出し口を開いた。

「あの、ちょっと気になることがあって…」

"得意先に"血法使い"の調達を頼まれてたからな、一石二鳥だ"

それはヤハビオの言葉。ライブラはクラウスをはじめ血法使いの集まりでもある。言うなればヤハビオの"得意先"にとってはまさに格好の的だ。

「物好きな奴もいるもんだね。気に留めておくよ、報告ありがとう」
「はい…。あの、それと名前って…」
「軽傷だが彼女も別室に入院していて、念の為の検査も済んでいる。安心したまえ」
「そうなんですか、良かった」

ふと思い出したのは名前の表情だった。
まだ彼女と知り合って自分は日も浅いが、ザップが倒れた時の狼狽え焦る表情は普段の彼女らしくなく、やけに印象に残っている。いや、寧ろあれが本当の名前なのかもしれない。そう言えば自分とそう年の変わらない名前が何故ライブラに居るのだろうか。事件の前に質問して、結局聞けていなかった。もし話してくれそうなら聞いてみよう、とレオは思いながら病室を去るクラウス達に別れを告げた。



◇◇◇


ところかわって別室。名前を診察し終えた担当医がキーボードを叩いてカルテを記入する傍ら、ナースが名前の創部を消毒しながらガーゼとテープをテキパキと交換していく。

「車の炎上に巻き込まれたって事だけど、気道熱傷も無いし打撲と手足の擦り傷だけだね。頑丈だねえ、君。」
「ありがとうございます。あの…」
「ああ、君と一緒に運ばれてきた子も無事だよ。意識清明、五体満足。全身の打撲・擦過傷と軽い熱傷はあるけど、酸素も順調に減量出来てるしね。後遺症や傷が残るほどでもないだろう」

先ほど面会に来たクラウス達からレオの病室は聞いていた。共に様子を見に行こうとした矢先に医師と看護師が診察に来たため、処置中も容体が気になって仕方なかったのだ。
そして#名前#はもう一人気になっていた人物を視界に捉える。
その人は顔や手足を包帯でぐるぐるに巻かれながらも、中庭のベンチでふてぶてしく煙草をふかしていた。 

「……」

ぶっきらぼうで軽薄な行動や態度も散見されるが、彼が根は悪人でなく面倒見が良い性分なのはライブラのメンバー達には周知の事実だ。だからこそ身を呈して守ってくれる。

だからこそ、名前は彼にある事を言わなければと心に決めていたのだ。

医師と看護師が退室するやいなや、小走りで名前は中庭へと足を運んだ。
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