Don't worry | ナノ


Don't worry
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※ペンギン視点

“偉大なる航路(グランドライン)”海中をゆっくりと進むハートの海賊団の潜水艦は、不寝番のおれと…おそらく医学書でも読んでいるだろう船長を除いて、みな寝ている。
時刻は早朝5時をまわる少し前、気配に敏感なおれは艦内の様子が手に取るように判る。
船長は大人しくしていた部屋でごそごそと動いている辺り、コーヒーでも飲む気なのだろう。今日もあの人はまた寝なかったのか、一体何日目だ…全くうちの船長には困ったものだ。

「(……いい加減睡眠をとらせないと、またぶっ倒れてしまうな)」

さておれはコーヒーを飲むのを阻止しにでも行くかな、とブランケットに包まって座っていた椅子から立ち上がった時、船が揺れた。
何か岩礁や海王類にでもぶつかったのかと思ったが、ベポの大きな声が聞こえてきたので、おそらく壁にでもぶつかったのだろう……すごい勢いで。
ベポの声はまだ聞こえていて、まだ寝ているクルーもいるだろうに、そんなに騒いだらかわいそうじゃないか。
かすかにキャプテン!と聞こえるから大方ローが通りかかったのだろう、ずいぶんと酷くなった隈を目の下に飾り付けて。
船長……ローの隈も、昔はもうちょっとマシだったのにな。なんて懐かしい過去を思い出しながら、おれは部屋を後にした。



案の定、とでも言うべきか、ベポの隙をついてキッチンへ行こうと作戦を練っているらしい船長がいた。

「船長、今キッチンの方へ行こうとしていましたね……また寝ていないのか?」

船長は振り向かない、だがおれの声だと気づいているはずだ。
少し肩が揺れたのをおれは見逃さなかった。

「…小言は嫌だぞ、ペンギン」
「それなら、眠気覚ましのコーヒーなんて飲まずに、今すぐベッドに行ってくれ…」

疲れたようにそう言えば、おれに命令するな、などと言いながらこちらに振り返るローを腕を組んで仁王立ちで見ていると、少したじたじとした様子を見せる。自分に非があると分かってはいるんだよな、アンタは。
おれはクルーの中でもローとの付き合いがもっとも長いと言っても過言ではない、なんせ彼との付き合いはハートの海賊団結成前の子供の頃からで、簡単に言えば幼なじみという間柄に当て嵌まる。
チビの頃から一緒にいたからローの扱い方は慣れたものだ。

「命令じゃない、幼なじみとしてローを心配しているから言うんだ」

きっと今のローなら反論しないだろう、以前こういった時に一度ローは激しく反論をした。その時は一週間くらいまともに寝ていない彼を懇々と諭したが、抵抗したため強い睡眠作用のある麻酔を打って強制的に眠らせた。
さすがに二度も同じ過ちを繰り返すような愚かな男ではない。
多少ならばこちらもひいてやれるのだが、今回ばかりは譲れない。
おれはいつも持っている麻酔の注射器の入ったケースを何時でも取り出せるように手のひらで触れた。

「…分かった、分かったからそれしまえ」

おれの纏う不穏な空気に観念したのか、両手を肩口まであげて降参のポーズをとった船長に追い討ちをかけるようにおれは応えた。

「……船長室のベッドに入るまで見届けたらな」
「今日のペンギンはなんだか強いねー」

なに感心しているんだベポ。
返事はしたもののなかなか移動を始めないローの腕に、おれが焦れて注射器の針を射す前に船長室に戻ってくれ。
ようやく歩き始めたローの後ろを当たり前のようについて行く。

「(……このまま大人しく寝る気は、無さそうだな)」

さあて、これからどうしようか、きっとなかなか寝ないだろう彼に貼りついていてもあまり効果は期待できない。
とりあえずベッドの中に押し込んだ。

「ほら、三時間でもいいから寝て下さい…今日は8時に浮上する予定ですから」
「しつこいぞ、ペン」

もう寝るから出てけ、と布団に潜り込んだローにヒラヒラと手で追い払われたので、本は読まないで下さいね、と釘を刺す。
しかしこのままごろごろされるだけでは、……寝てくれなければ意味が無い。
仕方ない、な。
これも船と船長のためだ。

「心配しなくも大丈夫だから、…アンタが寝ている間はおれに任せておけ」

ちゃんと寝ろよ、とだけ言い残して、おれは船長室を後にした。



ぱたん、とつい先程閉めた扉の向こう側……つまり船長室の気配をこっそりと探る。
もしこれでローが本を読み出したりすれば、おれが持っている麻酔の注射器の針がローの皮膚を突き破る手筈になっている。
だがそんな心配は今回は杞憂だったみたいで、大人しくベッドの上で、もぞもぞといいポジションを探しはじめたようだ。
ああ、よかった。麻酔だってただじゃないんだ。
そろそろ行くか、と静かに扉の前を去ろうとしたときに、ちくしょう、無駄に鋭いヤツめ、というローの悔しそうな声が聞こえた。
それをばっちり聞いたおれは、きっとニヤニヤと笑っていたと思う。
この後直ぐに“LCOT”をペンギンが発動したため、続々と目を覚ましたクルー達はめずらしい事もあるんだな、と静かに笑いながら隈の薄くなった船長の登場を待っていた。
この日ローはお昼までぐっすりと眠っていた。


なんの心配もしなくていい
(アンタが少し休む間くらいは、おれが守ってやるから)
(元気になったら、またおれ達を守ってくれよ)

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120414

うちのペンギンさんはすごい子です。