染める、染まる。



友ちゃんと男夢主のお話。
プロットというか会話文のみです。
置いてある翔ちゃんシリーズと関わっているお話です。


オーディションが終わった後、翔ちゃんはつぐみ(翔シリーズ夢主)を教室の1つに連れ込みます。

「翔ちゃん、お疲れさま」
「ああ、サンキュー」
「春歌ちゃんも真斗くんも、すごかったね」
「だな」
「私が作曲家だったら、よかったのに」
「……はぁ?」
「そしたら、翔ちゃんが優勝出来るような曲、作れたかもしれないのに」
「どっから来るんだよ、その自信」
「だって春歌ちゃんが、私は真斗くんが大好きだから、あの曲が出来たんです、って言ってたから。私の方が、翔ちゃんの作曲家さんより、翔ちゃんのこと大好きだもん」
「おまえが作曲家だったら、たぶん惚れてなかったな」
「え、なんで?」
「おまえはモデル以外向いてないから。作曲家じゃ、今のお前にはなってないだろ?」
「ううーん、嬉しいような、嬉しくないような」
「素直に喜んでおけ」
「了解」

くすくすと笑った。

「でも私、あの曲、大好きだよ」
「だろ?俺も、気に入ってる」
「こうね、キュンってした」
「そ、そうか。恥かいた甲斐があったな」
「恥?」
「な、なんでもねぇよ!」
「やっぱり、悔しい?」
「まぁな。でも、俺もあいつも100%出し切ったしな」
「可愛かった」
「そればっかだな、お前」
「でも、すっごい、カッコよかった」
「だろ?」
「カッコよかったよ」

頭なでなで
行動と見合ってない

「寮の荷物片づけねーと」
「私もそろそろ仕事だから、行かなきゃ」
「そっか。んじゃな」
「あとでメールするね!」


彼女と別れた後、翔は寮で荷物の整理をしていた。同室のなっちゃんと会話しながら荷物をまとめます。

「翔ちゃんとの生活も、これで最後なんですねぇ。寂しいです」
「でも、あっちでも部屋は隣だしな。いつでも会えるだろ」
あっち、というのは、シャイニング事務所の寮。二人ともシャイニング事務所へ入ることになってるんでした。
「遊びに行きますね」
「ああ」

事務所に入る前に、翔はこれから手術を受けにアメリカへと渡ることになっている。
そんなとき、来客がきました。


「あれ、確かあなたは、翔ちゃんの」
「来栖さんとはこれで最期になるかもしれませんからね、挨拶に来ました」
「縁起でもねぇ事言うな!」
「手術の確率は50%と聞きました。裏と出るか表と出るかかですね」
「だな。ま、何とかなるだろ」
「色々とありましたが、あなたとのコンビは、楽しかったです」
「過去形にすんな」
「あなたが死ねないような状況を作って、お待ちしています」
「どんなんだよ」
「まずあなたが手術に失敗して死亡した場合、葬儀では、これまでさんざんのろけてきたことを全て暴露しますね。そして、墓はゆいの写真でコーティングします」
「想像しただけで吐き気がする…」
「あなたが冥途でからかわれ続けるような状況を作り上げます。死にたくないでしょう?」
「ああ、ゼッテー死ねねぇ」
「その方が、人間の不思議な力が働きやすいんだそうですよ」
「お前さ、渋谷とはどうなったんだ」
「どう、って。どういう意味でですか?」
「告白したのかってこと」
「してませんよ」
「俺が帰って来たら、告白しろよ」
「卑怯ですね」
「帰ってこさせたいんだろ?」
「分かりました。検討します」
「検討じゃなくて、約束しろ」
「はぁ…約束します」
「よし!」
「曲、作って待っていますから」
「おう!出来たら送ってくれ」
「はい。では、僕は帰ります。まだ支度が終わっていないので」
「お前、今晩移動する組だろ?大丈夫なのか?」
「殆ど、業者さんにやって頂いたので」
「さすが坊ちゃん」
「ヘリを呼んでしまう財閥サマほどではありませんけどね」
「…あいつらは、次元が違うからな」


さぁ、突然現れた彼は誰でしょう?という流れを作りたい。


彼は、早乙女学園時代の、翔ちゃんのパートナーの一色萬です。有名な作曲家、ワンカラー氏の御子息。それゆえ、学園内では親の七光りだと囁かれ、孤立していました。
彼と翔ちゃんには、こんなことがありました。的な感じで、学園生活スタートの4月からお話を進めていく。


孤立していた萬を見兼ねた翔ちゃんが声を掛け、ペアを組むことになりました。


「もう、曲のラフ作らなきゃなんねーんだな」
「そうですね。授業を受けながら、1年で曲を完成させなければなりませんから。時間がありません」
「つーかさ、作曲って、どういう感じでやるんだ?」
「どういう感じ、と言われても。淡々とパソコンに向かって、行き詰まったら楽器を弄ってヒントを得る。そんな感じですかね」
「へぇ、何か、楽しそうだな」
「別に楽しいだなんて、思ったことはありませんよ」
「へ?でも、作曲家に、なるんだろ?」
「親が作曲家ですから、コネもあるし、そこそこの力さえ持っていれば生活が出来る。そう思って選んだだけですよ」
「打算的すぎねぇか、それ」
「来栖さんも、そうじゃないんですか?親御さんの影響で、じゃないんですか?」
「ちげーよ。俺は俺の意思で、ここに来た」
「そうなんですか。でも、噂になっていますよ」
「噂?」
「コネで入ったと」
「あー、まぁそれは親が親だからな、仕方ねぇ。でも、俺は俺の実力で入った。それを、卒業オーディションで証明してやる!」
「85点取れればいいんですよね」
「ばか、優勝に決まってんだろ!」
「優勝、ですか」
「おう!」
「それは、不可能ですね」
「なんだよ、それ。もしかして、俺の歌のせいか?」
「いえ、あなたの実力がどうかは知りませんが、作曲科には、天才が紛れ込んでいます」
「天才?」
「Aクラスの七海春歌。聖川さんのパートナーですね。彼女は間違いなく、天才です。そして、その才能を既に表し始めている。七海さんは、パートナーに恋をしています。そして全力を、曲に注ぎ込んでいます。この間、聞かせていただきましたが、あの曲を超えるものを、私は書けません」
「決めつけんなよ」
「事実です」
「分かった!お前が七海を越えられないなら、その分は俺がどうにかする。お前が七海に負けてる分、俺が聖川を超えればいいんだろ?」
「ポジティブですね」
「それが俺様だからな」


この男は、自分とは全くベクトルが違う。この男が優勝する所を、見てみたい。

「ところで来栖さんは、恋をしてないんですか」
「なんだよ、いきなり」
「僕は恋を知らないので、気になって。確か、好きな人がいらっしゃるんですよね」
「なっ!?」
「神宮寺さんが、仄めかす発言をなさっていたんで」
「レンの野郎…」
「参考にしたいので、よかったら話を聞かせてください」
「そうだな、一緒にそこに居るだけで、感覚が変わる」
「感覚が?」
「普通、一人で居ると、広い視野で見ようとするだろ。でも、あいつがいると、あいつの方向にだけ感覚が働く」
「相手を、感受しようとするんですか?」
「あー、そうかもな。あいつの見てる世界が、感じてる世界が、気になる」

別世界の話だ。僕はそう直感的に感じ取っていた。

「参考になりました。ところで、テーマはどうしましょうか?あちらが恋をテーマにするなら、別のテーマにしましょうか」
「いや、同じテーマだ」
「あの二人は、自分たちの恋愛をテーマにしているんですよ?僕はさきほど言ったとおり、恋愛のことはよく分かりません。そこの差はどう埋めるつもりですか?」
「でも、越える以上は、同じテーマにした方が相手の居る位置が分かりやすいだろ?」

確かに、それはそうかもしれない。音楽は比較が難しいものであるとはいえ、基礎的な技術、表現力などは目に見えて分かるものだ。それを比較するのならば、同じテーマを用いたほうがよいのかもしれない。

「そうですね、同じテーマにしたいのなら、僕が恋愛について根ほり葉ほり聞くことになりますよ。それなら、僕はきっと、表現することが出来るはずです」
「や、やってやろうじゃねーか!どんどん聞け!」
「まぁ、やってみましょう。僕は85点取れれば問題ありませんし」

お前、そればっかだな。そう言って、彼は苦笑いを浮かべた。僕は、デビューさえ出来れば、問題はない。どんなテーマであっても、それは可能なはずだ。



「ここは下げましょう」
「いや、上げた方がしっくり来ねぇか?」
「文句ばかりですね、来栖さんは」
「なっ!歌う俺の意見も、少しくらい聞いたっていいだろ」
「ならば、根拠を示してください。ここは、相手の泣き顔を見てハッとするんでしょう?気分が下がるのでは?」
「泣き顔って、見ると胸がカーッと熱くなるんだよ。触りてぇ、とか、抱き締めてぇ、って」
「うっわぁ」
「引くなよ!」
「まぁ、言いたいことは分かりました」
「お前さ、女に興味ねぇの?」
「ありますよ。でも、自分に相応な方は、此処には居ません」
「嫌みか」
「いえ、僕自身がかなり下回っているという話です。僕はこの通り、作曲以外にあまり魅力のない人間ですので。アイドルになれるような女の方は、もっとランクの高い方じゃなければ釣り合わないでしょう」
「そっかぁ?お前、結構面白いぜ?」
「そもそも、恋愛は禁止でしょう。今やる必要性はありません。時が来たら、相手を探します」
「まぁ、それもそうか」

そして友ちゃん登場。


渋谷友智香。Aクラスで、七海さんとよくつるんでいる女性だ。アイドル志望で、歌もうまいそうだ。自分とは関係のなさそうな人種だ。TVの中から出てきたような容姿に、意志の強そうな瞳。アイドルのたまごが揃っているこの学園の中でも、一際輝いていると思う。

そんな彼女が何故か、僕を校舎の裏へと呼び出した。何の用だろう。そう思っていたら、ご本人が登場した。

「あんたさ、春歌の曲、何回か聞いてるんだって!?」
「はい。聞かせて頂いています」
「まさかとは思うけど、あんた、春歌のこと狙ってる?」
「あの人、恋人居るでしょう?そんなことはしませんよ」
「え、知ってんの?」
「曲を聞けば分かりますよ」
「そ、そうか。ならいいや」
「不可解です。どうして、他人のことにそんなに干渉するんですか?」
「友達だからだよ」
「へぇ」
「あんたさ、友達居ないの?」
「居ますよ、それなりに」
「困ってたら、どうにかしたくならない?」
「まぁ、後々の自分の利益になるのなら、いくらでも」
「そういう損得勘定ナシで!」
「生憎、ボランティア精神は持ち合わせてません」
「はあああああ、あんたさ、すっごい人生損してるよ!」
「していませんよ」
「してるっての!よし分かった、あたしと友達になろう」
「は?」
「ケータイ出して」
「え?」
「はい、アドレス交換しました。私は渋谷智ちか」
「知っていますよ、渋谷さん。目立ちますから」
「ならよし!あんたは?」
「一色萬です」
「じゃあ、萬って呼ぶ!よろしく、はい握手」
「面倒な人ですね」
「よく言われる」

彼女は笑った。向日葵が咲いたような感覚が、僕の中に生じた。

「よし、昼飯食べるわよ」
「どこに行くんですか?」
「Aクラス。春歌と、何人か男子が居るの」
「もしかして、聖川たちか?」
翔ちゃんが入ってくる
「そうですよ」
「んじゃ、俺も行く」


「初めまして、一色萬です」
「は、初めまして!七海春歌です!」
「…あなたとは、初めましてじゃないでしょう」
「はっ!ごめんなさい!つい脊髄反射で!」
「そっか、あんたらは知り合いか」
「作曲科が2人に、アイドル科が5人。アンバランスだな」
「しかも、Sクラスが2人居るって言う」
「ああ、僕は皆さんと同い年か年下ですので、敬語じゃなくていいですよ。七海さんは癖で敬語になってしまうようですが」
「ご、ごめんなさい…」
「いえ、別に、敬語を使われたからってイヤになることはありませんから。普通の方は、その口調だと疲れてしまわれるから、そう言っているだけです」
「そ、そうですか…!」
「私も七海さん同様、この口調が常ですので。お気になさらないでください」
「じゃ、俺らも萬って呼んでいい?」
「はい」
「よろしくな!」
「宜しくお願いします」

「Sクラスって、どんなことやってんの?」
「アイドル科は、今はダンスが中心だな。つーか、ほとんどAクラスと合同だろ」
「あ、そっか。作曲科は?」
「譜面の書き方をやっていますね。こちらも、Aクラスとの合同が多いです。その際には、七海さんとペアを組ませて頂いています」
「へ?何で?普通SはSと、AはAとじゃないの?」
「いつも余るので、僕たちは」
「はい、余ります…」
「一回さ、友達のグループが出来ると、入りにくいよな!」
「そ、そうなんです!」
「(このフォロー能力…すごいですね…)」

「たしか一色くんは、父上があのワンカラーさんだったな」

ワンカラー。20才の時に作曲家としてデビューし、今では作曲家歴25年のベテランの有名作曲家として活動している男性だ。僕の父である。BGMからアイドルソングまで、幅広いジャンルの作曲を手がけている。

「ええ。名字が一色なので、ワンカラーです」
「そ、そうなんですか!あの、HAYATO様の曲も、一度書かれましたよね!」
「ああ、書いていましたね」
「雨の曲って感じで、イントロでは水がアスファルトに叩きつけるような音がするんですよ!大好きです!」
「父に伝えておきます」
「HAYATOで雨って言うと、ターラララーってやつか?」
「それです!ターラララーラッラッ」
「おい作曲家、音外れてるぞ」
「う、歌うの苦手で…」
「そんなんでいいのかぁ?」
「まぁ、曲を書けさえすれば問題はないですからね」
「お前は?」
「…歌うんですか?」
「おう」
「ターラララーラッラッ」
「普通だ…」
「作曲家ってさ、万能なイメージあるよな、何か」
「楽器なんでも出来て、歌も上手い感じな」
「楽器なら大抵弾けますよ。それなりのレベルですけど」
「…意外と合ってたな」
「半分だから、50点ですね」
「数字にすんなよ」
「ふふ、翔ちゃんと萬くんは仲いいですねぇ」
「んな訳あるか」
「やめてください」


「ねぇ、あんたってさ、誰かを思って曲を作ったことはないの?」
「今、作っていますよ。来栖さんのものを」
「そうじゃなくて!こう、勝手に浮かぶみたいな感じ」
「ああ、それなら常々そうです。あなたはこんな感じです」
「フォルテッシモ続きかよ…」
「譜面に起こしたら、壮絶な光景になりますね。リスト並みのものに」
「あたしさ、あんたの音も、好きだよ。春歌は色が付いてる。あんたのは、色を付けたくなる」
「個性がありませんからね」
「そうじゃなくて!あんたは、どんな色にもなるの。これ、表現者としてうずうずするよ」
「あなたは、どんな色にでもしてしまいそうですよね、曲を」
「当たり前でしょ。あたしは、そーいう表現者になりたいんだし」

彼女は、音に溢れている。今すぐ、この衝動を譜面を埋めたい。

「息抜きに、作ってみますか」

そして僕は、何の意味もなく、彼女を表す音楽を作り始めた。本格的にではない、授業のノートの片隅に落書きをするような、そんな軽い気持ちでたまに音を入れていく程度だ。しかし、それが楽しい。どうしてかは分からないが、彼女を思い出すと心が暖かくなるのだ。彼女の声が、彼女の表情が頭の中に現れる。そうすると、何故か彼女に会いたいと思うようになった。


友ちゃんと廊下ですれ違うと、何だか様子がおかしかった。

「渋谷さん?」
「あ、あはは。何でもない」
「何でもない、って顔じゃないでしょう」
「うっ」
「将来有望な表現者が、こんなところで潰れたら、困ります」
「パートナーがさ、やめちゃったんだ」
「やめた?」
「他のアイドルの子と、駆け落ちしたの。Sクラスの子で、☆☆って子。」

Sクラスの彼女といえば、確か、OOくんのパートナーだ。つまり、彼もまたパートナーが消えたことになる。

「ここのところ、打ち合わせにも来ないからおかしいなって思ってたんだけど、まさかこんなことになってるなんて」
「いちおう曲はあるんだけど、ゼンゼン納得いかないまま、終わっちゃった」
「仮に戻ってきたとしても、彼らは退学処分を受けるでしょうからね」
「うん。だから、終わりなの」
「終わったのは、彼との曲制作だけですよ。あなたは、終わっていません」
「そ、そーだね!うん!」
「声、震えてますよ」
「ごめん、ちょっとだけ泣く」
「どうぞ」
頭をぽんぽんと優しく叩くと、彼女は肩を揺らした。アイドルは、泣き顔もきれいなのか。彼女が肩に頭を乗せた。頭を乗せられたところ以外にも、どこかが大きく揺れたような感覚がした。


友ちゃんは、パートナーを失った者同士ということで、Sくらすの作曲家の男の子OOとペアを組むこととなりました。
その男子は、萬を、ワンカラーの七光りだと言って嫌っていた男子でした。
萬は、その男子に接触します。


「お願いがあるんですが」
「なんだよ、今、忙しいんだ」
「あなたの才能を否定する訳ではありません。ただ、0から作るには、時間が足りない」
「分かってる。だから、続きから始めるんだろ」
「彼女は、あの曲を気に入っていない。0から作ることを、奨めます」
「そう、か」
「きっとあなたのことですから、ラフが数個出来ているんでしょう?検討する際にに、これも加えてください」
「CDと、譜面?何だよ、これ」
「僕が、彼女を想って作った歌です」
「いつから、これ作ってたんだ?」
「打ち込んだのは、1ヶ月前からです。本当は、僕が完成させたかったのですが。まぁ、あなたなら、それなりに仕上げられるでしょう」
「お前、もしかして」
「勘違いしないで下さい。ただの趣味でやった事ですから。ああ、彼女にも伝えないでくださいね。僕は今、彼女に構っている暇はないので」
「来栖を優勝させる気か?」
「当たり前でしょう。彼にはたしかに、歌唱力は足りません。でも彼は、アイドルとして必要な素養をたくさん持ち合わせています」


作曲家の男子が後日、接触してきました。
「お前のラフから、完成させるって、先生に言ったから」
「あなたにとって、不利になるのでは?」
「冷静に考えてみろよ。プロの目を誤魔化せる訳ないだろう。俺の作った曲と、お前の作った曲はあまりに雰囲気が違っている」
「……たしかに、その点を踏まえていませんでした」
「俺がラフを作ったのは確かに短時間だ。でも、時間をかけても、お前のあれを越えられる自信はなかった」
「そう、ですか」
「七光りとか言って、ごめん」
「陰口を叩く連中ばかりの中で、直接僕に本音を言ってくれたのは、あなただけでした。嬉しかったです」
「そ、そうか」
「…それと、少し、訂正があります」
「訂正?」
「僕は、彼女に恋をしています。だから、あの曲が出来たんです。あの曲を生み出したのは、彼女が居たからです。僕の実力が、そうさせた訳じゃない」
「恋をしたのがお前なら、あの曲はお前の化身だろ?どうして、そうやって分離をするんだ?」

「作品は、あんた自身でしょ!」と彼女が言ったことを、思い出した。

「あなたは、彼女と上手くやって行けそうですね」
「お前、笑うんだな」
「何だと思っているんですか、人を」


「ねぇ、萬」
「何ですか」
「あのさ、ありがとう!あたし、あの曲、歌いこなすから!」
「せいぜい頑張ってください」


そして卒業オーディション。萬は、友ちゃんの歌を聴きました。

ああ、イメージ通りだ。パートナーを変えたことは、彼女にとってもプラスだっただろう。彼女の声は、全身に浸透する。彼女のビブラートは、僕の心の奥底をも揺らす。表現者としても、人間としても、僕は彼女に、こんなにも惹きつけられている。


翔ちゃんも全力を出し切りました。

「準優勝、かよ…」
「まぁ、順当ですね」
「悔しくねーのかよ!」
「いえ、別に。でも僕は、あなたの歌が一番好きです。単に、評価をされなかっただけです」
「そ、そうかよ」
「92点。例年ならば、優勝しているスコアですね」
「お前、実は悔しがってるだろ」
「いえ、客観論です」
「渋谷も、凄かったな。確か、8位だったよな」
「ええ」

優勝はまぁ様と春歌でした。


「あの、さ。お前って、どの分野の作曲家になるんだ?」
「出来れば、BGMを担当したいと考えています。いわゆる、インストのものを」
「そうか」
「でも、ボーカルの入ったものの作曲も、なかなか楽しいです。仕事を貰えれば、やりたいと考えています」
「ほんとか!じゃ、俺のも作ってくれねーか?」
「ボイトレ、ちゃんと通ってくださいね」
「おう!任せろ!」
「美しきコンビ愛デース!デビューシングルは、キミたち二人のコンビで行きまショー!」
「それは、ちょっと…」
「乗れよ!」
「それと、ミスターヨロズには、渋谷サンの曲も書いて頂きマース!」
「渋谷さんのを?何故ですか?」
「というのも、渋谷サンの相方が、龍也サンの大ファンで。彼を再び歌わせるために、イッショウケンメイ曲を作っているんデスネ。だから、今は龍也さんのお眼鏡にかなうかドウか診断中なのデース。そんな訳で、今は渋谷サンの担当作曲者が決まっていないのデース」
「何故、僕なんですか?」
「本人が、ご指名だからデース!自分色に染めたいと意気込んでマース!」
「そういう事ですか」
「あなたなら、可能でショー?」
「まぁ、可能ですが」
「(素直じゃないヤツ)」


「ミスター翔の心臓の件、アナタは知っていましたか?」
「はい」
「どうして黙ってたの?」
「本人が、オーディションに参加したいから他言しないよう、と言っていましたので」
「止めなかったのは、ホワイ?」
「本人がやると言い切ったからです」
「…ブラボオオオオ!これぞ、コンビ愛でーす!やはり、キミたちには頑張ってもらいたい。だから」
「な、なんだよ」
「ミスター翔。ミーの知り合いに、腕のいい医者が居ます。手術、受けてみませんか?」
「……治るのか?」
「彼は心臓外科のゴッドハンド。ミスター翔と似た症例の手術も行っていマス!検査を受けて、可能ならば手術をしてもらいましょう。ユーはもうシャイニングの一員だから、治療費の心配はノンノンよ」
「(心臓外科の手術って、ウン千万かかるんじゃ…)」
「まずは、話だけ聞くっていうのは可能ですか?その後で、家族に相談してぇんだ」
「オッケーです!では、アメリカ行きの飛行機を手配しておきまーす!」
「治るといいですね」
「ああ」
「」



「あなたの見送りには行きません。僕は、少しウィーンへ行ってきます」
「ウィーン?」
「父が、そこに居るので。教えを仰ぐんです」
「」
「父は偉大な作曲家です。僕はいつか、それを越えてみせる。まずは敵を知らなければなりません」
「俺は、半年で戻ってくるぞ」
「では、僕も半年を目処にしますね」
「半年で越えられるのか?」
「いつか、と言ったでしょう?越えるのは、5年は掛かります」
「じゃ、また半年後に、シャイニング事務所でだな」
「ええ。お元気で」


翔ちゃんが旅立つ前に、友ちゃんにこんなことを言います。
「渋谷、おまえ、彼氏作るのは半年は後にしとけよ」
「何ですか、いきなり」
「半年後、いい出会いがあっから。楽しみにしとけ!」
「は、はぁ、分かりました」
「翔くん、頑張ってね」
「おう!七海、CD送れよ」
「はい!たくさん送ります!」
「1枚でいいっつーの」


翔ちゃんの出発日、ある女の子が翔ちゃんの目の前に立ちました。つぐみです。
「出国審査です」
「そうか」
「半年後、ここに戻ってきますか?」
「当たり前だろ」
「翔ちゃん」
「泣くな、ばか」
「翔ちゃん、お腹とか、壊さないでね。あと、お水は、エビアンが美味しいからね」
「…ほら、笑えって」
「いひゃい」
「お前を泣かせるために、海外に行く訳じゃねーから。笑って待ってろ」
「翔ちゃん」

つぐみが、翔ちゃんのほっぺにキスを落とします。

「な、なっ!?」
「待ってるからね!行ってらっしゃい!」

ああ、やっと笑った。

「おう」

帰ってきたら、返り討ちにあわせねーと!このままじゃ終われねーよな。男として。


手術が成功しました。翔ちゃん帰国。

「来栖さん、おかえりなさい」
「渋谷、もう呼んだからな」
「……は?」


友ちゃんが現れました。二人きりで個室に居ます。
「なに?話って」
「あなたが、アイドルとして生きてゆくことは理解しています」
「」
「それでも僕は、あなたに、恋をしました。今も、しています」
「」
「アイドル渋谷友智香ではなく、僕に新しい世界を与えてくれたあなたが、好きです」
「」
「答えは、いつでも、構いません」
「いや、今、出す」

「あたしさ、アンタのこと、放っておけない」
「」
「音楽バカで、でも誰よりも他人のことが大好きで、だからこそ人から逃げる。あんたを一人にしといたら、ずっとそうなっちゃうでしょ。だから、あたしが、これからもすっと、あんたを引っ張っていくから。覚悟出来てるんなら、あんたの恋心に、受けてたってあげる」
「渋谷さん」
「」
「宜しくお願いします」

コイツが笑うと、心が動くのが分かる。あたしは、コイツが好きなんだ。コイツの送り出す恋心に、あたしはとっくの昔に落ちてた。今は、まだ、言ってやんないけどね!



たまに萬の部屋に泊まりに来ちゃう系友ちゃん。朝には起こしてくれたらいいね!

「ほーら、起きろって」
「…まだ、7時でしょう」
「あんた、意外と睡眠時間長いよね」
「…」
「もう寝てるし」

ばふっと勢いよく、萬の寝てるベッドに座る友ちゃん。萬の寝顔を見て吹き出します。

「ふは、間抜けな顔」
「渋谷さん」
「へ?」
「…」
「寝言かよ」
「」
「はー、こりゃダメだ、朝ご飯でも作るかねぇ」

ちょっと友ちゃん顔赤いっていう。


っていう幸せな生活を!!!!友ちゃんに!!!!迎えて欲しいと!!!!思います!!!!
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