Celebration 4月と言えば入学、そしてクラス替えがある。そして同じ教室で過ごすことになる人たちも、がらりと変わる。新しい関係を、作ることを要される。 この一年、誰と仲良くしようか。どのグループに入ろうか。そんなことを考えて皆がてんわやんわしているうちに、1ヶ月がすぎてしまう。そして、4月は終わってしまうのだ。 だから、4月生まれは、不運なんだ。仲良くなった頃には、誕生日が終わっているのだから。中学二年になった今年も、きっとそうなるんだろうな。今日、4月17日に誕生日を迎える彼女、小坂田朋香は、そう思っていた。 しかし、今年は、違っていた。 今日、昼休みになってすぐ、彼女の親友である桜乃が、教室に来て、誕生日を祝ってくれた。桜乃の発した言葉を聞いて、近くにいたクラスメイトたちも、一緒に祝ってくれた。そうして総勢10人ほどで歌われたハッピーバースデーは、少しむずがゆいものだった。 今日はいい日だ。そんな事を思いながら、朋香は教室を出て、ジュースを買いに購買へと向かっていた。昼休みは残り少ない。そのため、少し早足で、廊下を歩いていた。 そのとき、正面から、見慣れた男子生徒が見えた。朋香は、大きく手を振り、大きな声で彼の名を呼んだ。 「リョーマ様ー!」 そう叫ぶと、名前を呼ばれた彼、越前リョーマは、顔をあげて、足を止めた。そんな彼の元に、朋香はぱたぱたと音を立てて駆け寄った。 「相変わらずうるさいね、あんたって」 そう毒を吐くと、彼女は頭を掻いた。 「嬉しくて、つい」 えへへと笑うと、彼はため息をついた。 「そういえば。さっき、アンタのクラスがやたらウルサかったけど。何かあったの?」 彼は、彼女の隣のクラスの生徒だ。壁が薄いため、少しの騒音も、隣には届いてしまう。 さて、さっきウルサかったということならば、思い当たることはただ一つ。先ほどの、ハッピーバースデーだ。 「桜乃とクラスの子が、ハッピーバースデーを歌ってくれたんですよ。たぶん、それだと思います。あたし、今日が誕生日なんですよっ!」 「へぇ」 誕生日という一大イベントの存在を知らされたというのに、リョーマの返しは、いつも通りクールなものであった。 「リョーマ様は12月生まれだから、12月まではあたしがお姉さんですね」 その言葉に、彼は少しムッとした。 「8ヶ月しか変わらないじゃん」 「8ヶ月も、ですっ!」 語気を強めてそう言うと、彼は折れたようだ。しかし、少し呆れたような表情を浮かべ、まぁいいけど、と呟いた。 呆れたって感じの表情も格好いい。そんなことを思いながら、彼女は彼の顔をじぃっと見つめていた。そのとき、彼が、口を開いた。 「ハッピーバースデー、小坂田」 朋香の目を見て、彼はそう素っ気なく言った。不意打ちの言葉に、朋香は少し焦った。何かを返さなければ。そう思って、慌てて言葉を紡いだ。 「せ、せんきゅー、べりーまっち!」 流暢な彼の英語とは反して、彼女の英語は拙かった。彼は、ヘタクソ、と評価を寄せて笑った。そして彼は、また英語を紡いだ。 「Wishing you a day that's a reflection of you.Splendid,wonderful and simply great.」 少し早口で繰り出されたそのフレーズは、平々凡々な英語力しか持っていない中学二年生の朋香には、理解が不可能であった。 「ええっと、ぱーどぅん?」 口をぽかんと開いたあとで、そう聞き直す。すると、彼の口元が少し緩んだ。 「Have a good dayってこと。それじゃ」 彼は一瞬だけ、朋香の頭にポン、と手を置いた。その後で、彼は朋香の進行方向とは逆の方向に歩いていった。 朋香は、頭に自分の手を重ねた。そして、頭に刻まれた彼の声を、頭の中でまた再生する。ハッピーバースデー、小坂田。まさか、リョーマ様にも祝ってもらえるなんて。やっぱり、今日はいい日だわ。 ふふふ、と笑い声を漏らし、大きく口元を緩ませた後で、彼女は再び歩き始めた。 (今日という日があなたの性格を反映して素敵で、素晴らしく。とにかく最高な一日でありますように!HAPPY BIRTHDAY 朋ちゃん!!) 2012/04/17 ←TOPへ |