ハンター試験を受ける前に、ある国を訪れていたときのことだ。私は宿泊先を探して回っていた。宿泊できる場所を事前に調べておいたはずなのだが、なかなか見つけられずにいた。このあたりは、廃墟ばかりが立ち並んでいるためである。廃墟の中に、廃墟の外観をした宿がある。カメレオンとなる必要はないはずなのに、そこは敢えてそうしているようだ。理解しがたい趣向だ。しかし金欠であった私にとって、その宿舎の値段は魅力的なものであった。

さて、このあたりは閑散としていて、あまり人通りがない。しかし、治安がいい訳ではないらしい。とにかく、面倒な事に巻き込まれる前に、何とか見つけてしまわないと。私は再び、正面を見た。

その瞬間であった。異様な光景が、私の視界に入ってきた。

ある女性が、アジア系の男たち2人に、追われている。男たちはナイフを持っていた。女性は丸腰だった。しかし女性は、数少ない道行く人々に助けを求める訳でもなく、ただ逃げ回っているだけだ。寧ろすれ違った私に、「危ないので、建物に入ってください!」と述べたくらいだ。追われる者と、追う者。事情によっては女性が悪いことも有りうる。しかし、あの女性が悪い人間とは、到底思えなかった。
結論を言えば私は、女性を追っていた男たちを、ロープでぐるぐる巻きにした。事情を聞こうと男たちに話し掛ければ、この地の言葉ではなかった。たぶんこれは、サルイ国のものだろう。少しだけ聞き取れた内容から察するに、彼女は卑怯な手を使い、サルイ国の経済を壊そうとしているそうだ。この若い女性一人の力で、一国の経済が揺らぐ。どうにも実感が沸かない話に、私は首を傾げた。男たちは間もなく、警察に連れて行かれた。

「本当に、ありがとうございました」

女性はふかぶかと頭を下げた。肩まである黒髪が、揺れた。その光景に、大和撫子、という言葉が頭をよぎった。彼女は和服姿ではなく、スーツ姿であった。しかしそれでも、立ち振る舞いはそれだったのだ。

それから展開された話によると、彼女は、ジャポンが誇る町工場の多いチイサ区の出身であるらしい。各国で、自社の作る金庫を広告しているそうだ。貰った名刺にある役職を見てみると、代表取締役、と書かれている。つまり彼女は、社長ということだ。ジャポン人は若く見られるとは言え、彼女の年齢が30に到達しているとはとても思えない。たぶん彼女は、20歳前後であると思われる。そんな人物が、社長。私はただ驚いた。そうして、私は彼女と出会ったのだった。

それからというものの、彼女とは、電話やEメールでたまにやり取りをした。互いに居る地が近ければ、カフェなどで談笑を交わした。彼女は博識で、話をしていると退屈をしない。そう素直に述べると、私もそうです、と言って彼女は笑った。彼女の笑みを見ると、心が安らいだ。


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