奇妙な二人


イルミ=ゾルディックは、今度行われるハンター試験を受験する。

しかし、そのままの容姿、名前で受験をしては、色々と厄介なことが起きかねない。
そう、彼は、ハンターに命を狙われる身であるからだ。

イルミ=ゾルディックは、暗殺者一家の一員であり、その首には高額の賞金がかかっている。いわゆる、賞金首ハンターが狙っている対象である。

彼の高い能力を持ってすれば、多数のハンターが居るだろう試験会場に飛び込んだとしても、飛んで火にいる夏の虫の状態とはなり得ないだろう。

しかし、そんな彼が真正面から試験を受け、条件をクリアしたところで、ハンターの資格が与えられる訳がない。
ハンターと賞金首は、どの視点から考えてみても、相容れない存在であるからだ。

そのために、彼は偽名をし、変装をすることに決めたのである。



そして、ハンター試験を2週間後に控えた時の事だった。

彼は、当日の予行練習を兼ねて、ギタラクルという名で使う予定である"体"を使ってみることにした。

体とは言っても、他人の体を使う訳ではない。

イルミは、小さな鋲を体に刺すことで、その体をコントロールする念能力を持っている。
その能力を使い、彼は自分の容姿を変形し、全く違う体を生み出すことができる。
そうして生み出した体を使い、彼はハンター試験を受験するつもりであった。


さて、彼にとって、ギタラクルという体は、久々に使うものであった。
かなりの多くの鋲を体に刺すため、精神的にも肉体的にもかなりの負担がかかるため、使用を避けていたためである。

それゆえ、ぶっつけ本番で使うとなると、動かす時に何か不都合が出てしまうかもしれない。

それを検証するために、彼は、今日一日、ギタラクルとして生活をしてみることにした。試運転の一環である。





彼が街へと出てゆくと、道行く人が振り返る。

多くの鋲が刺さっている彼の容姿に対して感じる、物珍しさとか気味の悪さが、彼らをそうさせるのだろう。

理由は皆に共通している。
そのはずであった。



その例外の出現は、突然のことであった。

それは、昼ご飯でも食べようかと店を物色していた時である。

彼は、不意に腕が引っ張られたかのような違和感を感じた。
腕を引っ張られた方向へと振り返ってみると、そこには見知らぬ女が立っていた。


「運命の人だって直ぐに分かりました、付き合ってください!」

そして、目が合うなりこんな言葉を投げかけてきたのである。


まさか、好意的な目を向ける人間が居たとは。
こんな事になると、誰が予想しただろうか。

ギタラクルは、頭を抱えた。


彼、ギタラクルは、ただ街を歩いていただけである。

一言も言葉を発していないし、人に対して何かアクションを起こしてもいない。

しかし、そんな彼に、彼女は食いついた。
理由は全くもって不明である。


「お名前、何て言うんですか?」

「クールな所もカッコいいですね!」

「あの、お住まいはどちらなんですか?」

「あ、もしかして、疑ってます?悪徳商法とか勧誘とかみたいに、変なものじゃないですよ」

ギタラクルは、彼女の投げかける質問に一切答えずにいる。
第三者から見たら逆ナンも変なものだけどね。そんなツッコミも脳にしまったまま、彼はただ歩いていた。

そんな彼に構うことなく、彼女はただ、彼に言葉を投げかけていた。



「私、変な容姿な人が好きなんです」

遠回しに失礼な事を言っているが、彼女にはその自覚がないらしい。

「そもそも私、容姿がいい人って好きじゃないんです」

「前に付き合ってたヤツは、まぁ、イケメンだったんですよ。でも、性格が本当に悪くて。それで分かったんです、イケメンって言うのは、今まで散々甘やかされて来たから、性格がよくなるはずはないんだって」

大層偏った価値観を持っているらしい。
それは彼女が元来持つものなのか、この相手と別れた後に生じたものなのか。ギタラクルは全く察しがつかなかったし、察する気も生じなかった。


「だから、今度こそは失敗しないように、容姿が良いってだけで相手を決めないようにしようと思って。そしたら、あなたをたまたま道で見つけて、こう、ビビビッと来ちゃったんです」


彼女はギタラクルに、えへへ、と笑いかけるが、ギタラクルは顔色一つ変えようとはしなかった。


彼はただ、彼女をどう処理しようかを考えていた。

撒くなり始末するなりしたいのだが、ここで派手に動いてしまうと、ハンター試験に支障が出る。
人目のある所で"ギタラクル"が暴れた情報がハンター協会に届く可能性は、0ではないからである。
それゆえ出来れば、目立ちたくはない。

そのため、この場で変装を解くことも勿論不可能である。

では、撒けばよいと思うのだが、この女が相手となると、それにもなかなかの労力を要しそうである。


ならば、今やるべきことは一つである。
彼は、彼女を連れて歩き続けた。

「で、容姿が変な人なら、きっといい人に違いないって思いまして」

彼女は、依然として、話を続けていた。

そんな彼女を横目に、彼は、人通りの少なそうな路地裏へとたどり着いた。
人の気配は、感じられない。ここでなら、きっと何をしようが目立たないだろう。

彼は、足を止めた。


「で、よかったら、一度、お食事だけでもどうですか?」

彼女は変わることなく、彼に好意を飛ばしている。

それが、彼の感情をちくりちくりと刺激していた。
理由は分からないが、彼は苛立っていた。


そんな彼女に対して、彼はずっと抱えていた疑問を投げかけた。

ここならば、話をしようが殺しをしようが他人に目撃はされない。


「あのさ。キミってさ、容姿でしか人を判断出来ないの?」

「え?」

やっと口を開いてくれた。
それはとても喜ばしいことであったが、彼から飛び出したのは、とげとげしい質問であった。

「俺とキミは初対面だし、会話もしてない。俺を好きになるとしたら、見た目しか判断材料がないよね」

彼女はただ、ギタラクルの発言を聞いていた。

「キミはさっき、中身がいい人を選ぶために、容姿がよくない人を選ぶって言ったけど、それは結局、容姿しか見てないって事だよね。中身なんて、見る気ないんじゃないの?」

冷たく言い放つ彼に、彼女は語気を強くして反論をした。

「仮にそうであっても、私は、あなたの容姿を見て、運命を感じたんです!」


やはり、彼女の発言はどうにも腹が立つ。
殺してしまえばいいのだが、それでは腹の虫がおさまらない。そんな気がした。

たぶん、彼女のこの気持ちを打ち崩してやれば、少しは和らぐのではないか。そうするための方法を考えてみると、彼はある手段を思いついた。

どうせ殺すのだから、何をしても問題はない。


「それじゃ、俺の容姿がこんなことになったら、どう思う?」


そう言った後に、彼は、鋲を抜いていった。

みるみるうちに変わってゆく彼の様子を、彼女はまばたきもせずに見守っていた。

「残念でした」

そうイルミが述べた瞬間、彼女は漸く正気を取り戻したようだ。

「え、な、何で?」

狼狽をする彼女に対し、イルミは声色を変えずに宣告をした。

「理由なんか聞かなくたっていいでしょ?きみは直ぐに死ぬんだから」

そう言った瞬間、彼は隠し持っていたナイフで、彼女を切りつけた。

首もとに向かってナイフを振ったが、当たる瞬間に、彼女の頭はナイフの下へと潜っていた。

ナイフは空を切った。

避けられるはずがない攻撃を、彼女はかわした。
偶然か、それとも必然か。


「キミ、何者?」


それを確かめるべく、彼がそう質問をしたと同時に、
彼女は、キャー!と叫び声をあげた。

女はこれだから厄介なのだ。この叫び声を聞いて、直ぐに人が駆けつけるだろう。

どんな相手であれ、次の一撃でしとめる自信があったのに、残念。

人目につかない内に退散をしなくては。

彼は、闇の方向へと走り出した。

───
〜2012/1/20までの拍手お礼。


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