「さっき言ってたこと、嘘です」
「は?」
「お得意さまから、さっき断りの電話があったんですよ。それで、それの処理に困ってたんです」
それ、と発音する時に、コウはレオリオの腹を指さした。
つまり、先ほどレオリオが平らげたオムライスは、行き場のなくなった注文の品だったらしい。
「俺は、まんまと踊らされた訳か」
彼は、かー、っと呟くと、乱暴に頭を掻いた。
「まぁ、ただ飯あげたことには変わりないですし、それでおあいこってことで」
ニッコリと笑いかけた後で、コウは出前箱を回収した。
「いや、飯もらったのに、カネ払わないのは気が進まねぇな。払わせてくれ」
「そうですか?そうして頂けると、こっちも助かります」
彼女の言葉を受けて、レオリオは尻ポケットを探り、そこに入っていた財布を広げた。すると、彼は、口を開けたまま微動だにしなくなった。
それを不思議に思ったコウは、彼の横で財布の中身をのぞき込んだ。
「……1ジェニーも、ないですね?」
彼女は苦笑を漏らした。彼は大きくため息をつくと、その場に座り込んだ。甲斐性のない男だと思われただろう。今なら、情けなさで死んでしまえそうだ。レオリオは、顔を上げることが出来なかった。すると、彼の頭の上から声が降ってきた。
「じゃ、今日のお代は出世払いでお願いしますね」
気を遣わせないためか、彼女はそう言い残して去ろうとした。しかし、顔を上げたレオリオが、なぁ、とコウを呼び止めたことで、彼女の足は止まった。
「絶対、後で払いに行くからよぉ、アンタの名前、教えてくれねーか?」
その言葉に、彼女は笑顔で答えた。
「コウ・キサラギです。また会えたら、どうぞご贔屓に」
そう答えると、彼女の足は、また動き出した。
レオリオは、彼女の名前を、忘れないように脳裏に焼き付けた後で、あることに気づいた。そう、聞くべきだったのは店の名前だ。彼は後悔をした。
まぁいい、ハンターにさえなってしまえば、調べることは容易だ。来月の試験に向け、彼も動き出した。