「どうしてそこまでして、生きることに固執するの?」

彼女のことを知ることが、ジョージの言う『仲良くなること』に繋がるのだとしたら、この質問を投げかけることには何の問題もないだろう。
クロロは、自己の好奇心を満たすこととした。

「私が生きてないと、死んでしまう人が居るんです」
「それって、どんな人?」
「母です」

近親者、それも一番近い位置に存在するであろう肉親が、死んでしまうかもしれない。たしかにそれならば、通常の人間よりも強く意志を持っていても不思議ではない。

「病気かなにか?」

情報は得たが、核心的なところまでの情報はまだない。そのため、クロロは更に質問を続けた。

「そうなんです。今、とても重い病気にかかっていて、今は植物状態なんです」
「何の病気なの?」
「詳しくは分からないんですけど、全身が麻痺をして、動くことが出来ない状態なんだそうです。呼吸もままならないみたいで、入院して状態を見ていないと危ない状態だって聞きました」

彼女は、机の上に置いていた拳をぎゅっと握りしめた。

「つまり、治療代が必要だから、それを稼ぐために生きるってこと?」
「それもそうですけど。そもそも母の病気って、治療方法自体が特殊で、全世界の中でも、行える病院がほんの一握りしかないそうなんです」
「難病なんだ」
「ですね。母が倒れて、手足を動かせなくなったとき、私も母もジャポンに居たんです。それで国内で病院を探したんですけど、私の出身国だと法律の縛りがあるせいか、何処からも『これは難しいです』って匙を投げられちゃいまして」

ジャポンは先進国だが、先端医学において他の先進国から遅れを取っているという話は、彼も知っていた。

「そんなときに、何の縁かは分からないんですけど、ハンター協会からいきなりお電話が掛かってきまして。それでお話をしていたら、私が去年から2年間、今からだとあと1年後からですね、そこからコックとしてハンター協会で働く代わりに、母の治療をしてもらうことになりました」

ハンター協会が、ただの一般人に対してそのようなアプローチをするとは考えにくい。しかし、彼女が一般人ではないことは、彼も、そして監視を行うジョージたちも把握している事実だ。

ジョージが彼女の監視を行っているのは、彼女がハンター協会へと行くまでの2年間に、彼女が逃亡しないよう監視しているにすぎないのだろうか?しかし、その説には多くの疑問点が残る。

「母は今も、治療を行ってもらっているらしいです。でも、延命するのがやっとみたいで。この2年間、一度も目を覚ましてないみたいなんです」

肉親の死が近い位置にあるというのに、彼女は泣きそうになる訳でもなく、ただそう淡々と彼に情報を伝えた。

「そもそも、2年後って言うのはどうして?」

疑問点の内の一つの答えを得るべく、彼はそう質問した。

「私にもよく分からないんです。でも、ハンター協会の方が、若いんだから青春を謳歌しろ、というようなことを言っていたような気がします。でも、ずっとレストランを持ちたかったから、猶予を貰えたことは嬉しいです」

彼女はそう言って表情を明るくしたが、それが作り笑いであることをクロロは直ぐに見抜いた。

「安楽死はしないの?」

二年間、一度も目を覚まさない上に、効果的な治療法がない。そんな状況で延命治療を行っても、回復する見込みは少なそうだ。それでも、彼女が希望を捨てずに居る。彼にとっては、理解のしがたいことであった。

「きっと、治療を行う技術が開発されると思うので。それを待ちます。母は苦しいかもしれないですけど、やっぱり、生きていて欲しいから」
「可能性、ね」
「出来ることがしたいんです。そのために、私は、長く生きて、母の治療を続けてもらわなければならないんです。だから、死ねません」

彼女の、生きることへの執着心の根底が、ようやく見えた。それでも、彼女という人間は未だにはっきりと見えない。全体を掌握するには、まだ情報が足りないのだ。

しかし、少なくとも言えるのは、彼女は母の生存を強く望んでいる。そもそも、ハンター協会へと働きに出ると決めた動機が彼女の母の治療のためなのだから、彼女が逃亡を行うことは考えにくい。では、監視の意図は一体何か?現在の情報ではやはり、それは解き明かすことは出来ないと彼は察していた。

「絶対に殺さないって確証はしないよ」
「でも私、絶対に殺されないって自信があります」
「どうして?」
「だって、私は無実ですから」

つまりそれは、証明してみせます、ということなのだろう。冤罪のち死刑宣告を受けるというシナリオは、彼女の中にはないようだ。

どうして、2年のメリットが課されたのか。その点が気になるが、それを彼女は知らない。あまりにも不自然なその期間設定には、きっと何か手がかりがあるはずだ。それは、ジョージが彼女を監視していることと繋がるのだろうか。
そんなことを思いながら、彼はレストランを後にした。


prev next

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -