「どうしたら、疑いは晴れますか。そういう意味で、仲良くなれってことだと思うんですけれど」

彼女はじぃっと彼の瞳を見つめた。

「そもそも、疑いを晴らすために人と仲良くなるって、必要不可欠なことかな」
「どうしてですか?」
「疑いを晴らすなら、仲良くならなくても情報さえ与えればそれで足りると思うよ。そもそも、友情には何の生産性もないし」

人間関係を形成する必要性があるパターンは二つしかない。そう彼は考えている。三大欲の一つである性欲を満たすために恋愛を行うことと、自分に必要な取引を行うために信頼を得ること。友情というものは、この二者の中間点にあり、得られる物もその中間点にある。どちらの性質も持っていると言えば聞こえは良いが、実質は、どっちつかずな性質しか持ち合わせていない。いわば無駄で、価値の低い存在だ。そうクロロは解している。人生において必要な物は、先に挙げた二者のみで十分なのだ。

「えっ、そうですか?ありますよ、いっぱい」

しかし、彼女の中では、それは不要なものではないという評価のようだ。クロロは、その評価の動機にほんの少しだけ、興味を持った。

「それって、どういったこと?」
「楽しくなりますよ、人生が。たしか、付加価値、っていうんでしたよね、そういうの」

しかし、その答えはあまりにも抽象的なものであった。

「人との友情がなくても、俺の人生は十分楽しいけどね」
「寂しくないんですか?」
「うん、別に」

つまり、彼女の中では、愛と信頼の中間点がなければ、寂しさという感情が芽生えるということらしい。自分の中には存在しない方程式に、彼の頭の中では、ただ疑問が膨らんでいくだけであった。

「やっぱり私、お兄さんのこと、ぜんぜん理解できないです」

彼女にとっても、それは共通の事象であった。自分の中には全くなかった価値観を持って生きている人間が居る。しかし彼はそれこそが正当であるかのように振る舞うのだ。人生の正解が大きく揺らぐような感覚を、彼女は感じていた。

「仲良くなろうって思ってる人に、それ言うんだ」

彼は笑った。幼い印象を受ける顔立ちが、更にまた幼くなった。

「隠し事をしても、見透かされてる気がするんで」

彼女も彼につられて、えへへ、と笑った。

「まぁ、確かにだいたいは分かるかな」
「やっぱそうですよね。そんな気がしました」

初めに会ったとき、彼女はパクノダには嘘が通用しないことを理解した。それは、クロロが投げかけた問いに対して、パクノダが全て回答していたからである。しかし、クロロにはそんな能力はない。それを彼女は理解している。それでもクロロに嘘が通用しないと判断したのは、本能的なものであった。
たしかに彼は、その洞察力で、嘘を見抜く。彼女のような単純明快は人間が嘘をつけば、彼はすぐにそれを察することができる。しかし実は彼女の方も、『彼には嘘が通用しない』と察していることで、彼のことを見透かしているということを自覚はしていないようだ。


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