コーヒーサイフォンのフラスコを洗って、ミネラルウォーターを注ぎ込む。ランプに火を着けて、その間にロートを準備する。ロートにフィルターを付けて、そのフィルターの中に粉を入れる。お湯が沸いたら、ランプを一度退かして、ロートを上からフラスコにねじ込んでから、またランプを戻す。
段々とロートへと浸食してくるお湯を何度かかき混ぜてから、頃合いを見て火を止める。
すると旅をしていた透明の液体が、フラスコにポタポタと落ちて帰ってくる。それこそが、彼ご所望のコーヒーだ。

コーヒーサイフォンはこのような課程を経るため、コーヒーを出すのに、約15分を要する。

短時間で済むコーヒーメーカーを買いたいと思ってはいるが、なかなかこのレストランの経営状況からは、その予算を捻出出来ない。それに、サイフォンで淹れるコーヒーは、手間をかけた分、他の方法よりも美味しさが増しているように感じられる。不便ながら、コーヒーサイフォンが世から未だに消えることがないのだから、きっとそれは全くの間違いではないはずだ。

彼女は、抽出し終わったコーヒーを、フラスコからコーヒーカップに移して、それをソーサーに乗せた。それから、角砂糖2つと、ミルク2つを更にソーサーの上へ乗せる。お待たせしました、と言って彼の居る机へそれを置くと、ありがとう、と柔らかな声色が返ってきた。
彼女はそのまま、彼の正面の席へと腰掛けた。

「ところでお兄さん、15時に、私がいつもお世話になってる人が来るんです」
「それって、ジョージさん?」

彼の瞳に、少し輝きが芽生えた。

「来る人もたしかにハンターですけど、違う人です」

なんだ残念、と言ったのち、彼の目の輝きは流れ星のように消滅した。

「メンチさんっていう、女の人です。彼女、美食ハンターなんで、ジョージさんとはたぶん、面識ないと思います」
「ふーん、そうなんだ。それじゃ、それまでには帰るよ」

今の時刻は13時だ。今からなら、ジョージの課した1時間の要件は問題なく達することが出来る。メンチが早く来ることがないよう祈りながら、彼女は釈明を開始した。


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