彼と何を話そう。それも、彼のプライベートを引き出さないような性質のものをチョイスしなければならない。そう悩んでいる内に、飲み物が半分ほどに減っていた。そろそろおかわりでも用意しておこうか。そう思い立ち、席を立とうとしたとき、彼女の目があるものを捕らえた。そして彼女は、飲み物のおかわりではない、あるものを用意するべきだと気がついたのだった。

「何か食べますか?」

彼女のその唐突な提案に、彼は首を傾げた。

「ほら、もうお昼ですし」

彼女は、彼の背後を指さした。彼女の指の先を辿り、彼はイスを少し引き、上半身を後方へと向けた。その先には、木製の鳩時計があった。あと2分で針と針が重なり、鳩が鳴き始めるような時刻を指していた。

「でも、お店は休みなんじゃないの?」
「お店は休みでも、ご飯は食べますよ。でも目の前に人が居るのに、一人だけ食べるってのも何だか気が引けるじゃないですか。だから、一緒にどうかな、と思って」
「じゃあ、お言葉に甘えて」

彼女の中には、自分を帰らせるという選択肢はないようだ。きっとこれも『仲良く』するための策なのだろうか。彼がそう考察していると、彼女はイスから立ち上がった。

「パンとご飯、どっちがいいですか?」
「じゃあ、ライス」

存在している選択肢ではあったが、言葉としては存在していない選択肢を選んだ彼に、彼女は苦笑した。

「ご飯って言ったのに。天邪鬼ですね」
「よく言われる」

どなたにですか?そう訊きたくなった口に、彼女はチャックをした。彼に干渉してはいけない。そして、彼のことを知ってはいけないのだ。それは、この契約の目的ではない。
そうなんですか、と言って愛想笑いを浮かべてから、彼女はイスにかけていたエプロンを手に取った。


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