18
男のその笑みを見た後で、クロロとパクノダが次に見た光景は、先ほどと同じ場所であった。しかし、先ほどまで居た人物が、誰一人として、居ない。

今のは幻覚だったのだろうか?しかし、幻覚であったのならば、大小の固まりが消滅していることとは結びつかない。自分の体を動かすことすら困難なほどに、痛めつけておいたのだから、何かしらの外圧がかかったはずだ。そうすると、先ほどの男は実在し、二人を連れ去ったのだと考えるのが適当であろう。

常人ならば、この状況を推理する術は持っていない。しかし彼らは、否、彼女は、過去に戻る術を持っていた。

「残されているもので使えそうなものって、足跡くらい?」

彼女は、地面を指さした。

「短時間だったからな、それくらいしかないだろう」
「足跡からでも、読み取れるのかしら」

彼女、パクノダは、物から記憶を探る念能力を有していた。人からは質問をきっかけに記憶を引き出すが、物に対しては、触れるだけでそこから最新の情報を引き出すことが出来る。物は、記憶をストックしないためである。

「とにかく、試してみるわ」

彼女は、男の足跡をまず特定した。森の中から続いている足跡は、大小の男たちの丁度間に位置する大きさであった。彼女は、その足跡に触れた。彼女の脳に、映像が流れ込んできた。

「最後に彼が発言をしてから、彼は二人を両腕に抱えて運んで、車に乗せたみたいね。時間にして、10秒ってところかしら。私たちは、瞬き一つしていないわ」
「それに、俺たちにはそれを見た記憶がない。まさか、奴は時間を止めたと言うのか」
「それくらいしか考えられないわね。瞬間移動していたなら、見えているはずだし、記憶にも残るはず」

推理は固まった。彼女は、彼の瞳を見た。彼は、お宝の情報を掴んだときと、同じ目をしていた。輝きだした彼の目は、彼女にその後の展開への予想を与えた。

「あの男を、追う」

彼女の推理は、当たっていた。彼は、二兎を追い、二兎共に捕らえるつもりだ。

「どうやって?」
「ハンターサイトで情報を得てもいいが、まずは、あの女に聞く」
「コックに?」
「ああ。きっとあの女が、中心人物だろう」

彼女は、ただ頷いた。どう言った繋がりなのかは分からないが、全ての事象は、コックと関係している。それだけは確かな事実であった。枝から幹を探り当てようとする場合、その枝が目的の幹から生えているという事実が分かれば問題はない。

「あの女を監視をしている理由と、あの男は繋がっているはずだ」

この流れに、何もおかしな点はない。しかし、何とも奇妙な感覚を、彼は感じていた。それは、まるで自分が駒にされているような感覚であった。見えない布陣の上に置かれ、プレイヤーの好きなように動かされる。それは彼のプライドをひどく刺激した。

その根拠の一つとして、彼の頭には、ある疑問が浮かんでいた。
どこの段階からは分からないが、発言から察するに男は、自分たちも監視していたようだ。そして、その姿を現したのは、コックと再度接触を試みようとしたときだった。

その理由は無論、コックと接触をさせないためだろう。しかし、それならば、何故ハンター二人ではなく、コックを回収しなかったのか?
そもそも、ハンターの保護をするためと言うのならば、自分たちがコックに接触している隙に回収を行えばよかったはずだ。わざわざ、自分たちを引き留めた理由。それが、不明なのだ。

彼の脳内に、あらゆる仮説が入り乱れている。その状態は、汚された自室を眺めているかのような感覚であった。

果たして、これを紐解いてメリットがあるのか。それは未だ不明である。だが、彼はこの状態のまま、まぁいいか、と納得して帰れるような人間ではなかった。推理小説を途中で読み捨てることは、彼のポリシーに反する行為だった。

この奇妙さを解明するには、情報が要る。いま、情報を引き出すには、コックと接触する必要がある。ならば、接触を試みるまで。例え何らかの罠が仕掛けられていたとしても、それはそのときに対応すればいいだけだ。彼は、そう結論付けた。

彼は、また崖の方を見遣った。そして、彼女と共に、また崖を下った。


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