17
クロロたちが、崖の方に目を遣ったときであった。

「さぁて。その辺にしておいてくれるかい、兄ちゃん方」

木々の中から、そう声が聞こえてきた。そしてその音源から、オーラが発され始めた。どうやら、これまで絶を使っていたようだ。クロロたちはその存在を、その瞬間に初めて認識した。しかし、正体は依然分からぬままである。

ザッザッと草を踏む音がし、次第にその音は大きくなってくる。そして、その姿が現れた。それは、40代くらいの男性だった。肩くらいまである黒髪は、静止時も波を打っている。切れ長の目の色も、黒である。終始締まりのない表情を浮かべる彼は、優男、というフレーズがよく似合う容姿であった。

「遠くから眺めてたんだが、流石につえーな、あんたら。クロロ=ルシルフルさんに、パクノダさん」

名を呼ばれたクロロは、眉間に皺を寄せた。

「お前は、誰だ?」
「こんなに近くで幻影旅団の団長サマを見られるたぁ、ついてるんだか、ついてないんだか」

男はクロロの問いには答えずに、そう述べてヘラヘラと笑った。今は地面へ寝ころんでいる二人が、男の声を聞いて体をびくりとさせた。しかし、クロロは二人を気には掛けなかった。

「何故、俺を知っている」

クロロは、再度男に質問をした。

「幻影旅団の構成員は把握しているからな。今はあんたらを見てたが、ほんの1時間前は、マチ、ヒソカの二人と接触をした。ここまでの情報を言えば、察しはつくだろう?」

ここまで、と称す通り、男はかなり細部の情報を掴んでいた。幻影旅団の顔と名前まで把握している人間は、この世では数少ない。クロロは、直ぐに候補を絞り出した。

「ハンター、もしくは、こちら側の人間だな」

ビンゴ。そう言って、男はニヤリと笑った。

「俺は賞金首ハンターだ。ま、今はタクシーの運転手でいる方が多いな。ちなみに、そこに倒れてる二人も、ハンターだ」

賞金首ハンターは、指名手配をされている重大な犯罪者を捕まえて、金を得るハンターである。それに対し、犯罪集団である幻影旅団の団長、クロロ=ルシルフルは紛れもなく犯罪者である。クロロを始めとした旅団員は、A級の犯罪者と評価を受け、現在、指名手配されている。
つまり現状は、山に降りてきたクマたちと、狩猟者たちが対峙した状態と何ら変わらないものであった。クロロは、直ぐにそれを察した。

「三人も揃っている訳か。俺とパクノダの首が、欲しいか?」

男は、首を横に振った。

「いいや、今はハンターの首を取られないようにするのが役目だな。治安維持もなかなか大変なんだぜ?」
「ほう。治安維持には、あの女の監視も必要なのか」
「そりゃ、言えねぇな」

男は、眼孔を鋭くした。空気が、一瞬凍り付いた。そんな感覚を、クロロとパクノダは同時に感じた。

「それじゃあな、クロロ=ルシルフルさんにパクノダさん」

また男は、にやりと笑った。そして、二人に向かって手をぱたぱたと振った。


prev next

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -