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クロロたちが外に出ると、そこに彼らの姿はなかった。しかし代わりに、崖の上から、先ほどのオーラが感じられた。どうやら、崖の上で手合わせをするプランのようだ。それを察した二人は、崖を登った。

そして、崖を登り終えると、先ほどの二人が居た。登ってきたクロロとパクノダを見て、小さな人物は、にやり、と笑った。口調は丁寧なものであったが、かなり好戦的な性格のようだ。

さて、クロロたちにとって、彼らは見知らぬ存在であった。彼ら二人のオーラの大きさから察すると、同業者か、それとも、ハンターか。どちらにせよ、今は、自分たちのことを妨害する者には変わりはない。

「それで、何の用だ。俺たちは、あの女に用事があるんだが」

クロロの質問に応えたのは、小さな人物であった。

「あの女から、手を引いてもらえるか」
「お前たちは何者だ」
「詳しくは言えない。しかし、あの女を監視している」

少ない情報ではあったが、クロロは彼らの動向を少し掴んだ。

「監視。つまりあの女は、お前たち以外の第三者が、監視する必要のある人物だと見なしているわけだな。そして、お前たちはその指示に従っている。第三者は、お前たちの上司に当たる人物、ということだな」

つらつらと推理を述べると、小さな人物は顔をしかめた。どうやら、ビンゴのようだ。クロロは口元を緩めた。

「とにかく、ここから離れてもらおうか。離れるつもりがないのなら、実力行使をする」

少し早口で、今度は大きな男がそう言葉を発した。

「お前たちが監視をする意図は何だ」

クロロがそう問うと、大きな男は顔色一つ変えずに、返した。

「答える義務はない」
「答えろ」

クロロは、オーラを膨張させた。まだ全力ではないが、それは二人を畏怖させるだけの量ではあった。

「お前は、一体、何者だ?」
「答える義務はない、な」

小さな人物の問いに、クロロは、先ほど大きな人物が言ったのと全く同じ声色で、そう返した。その瞬間、小さな人物が姿を消した。

「ほう、速いな」

小さな人物は、クロロの態度に腹を立てていたようだ。クロロに、殴りかかっていた。しかし、クロロは顔色一つ変えることなく、それを止めた。

実力差は歴然であった。しかし彼らは、クロロとパクノダから、逃げようとはしなかった。否、挑まなくてはならない、というような印象を、クロロは受けた。あの除念師を守るためだろうか、それとも、上からの指示には逆らえないからであろうか。もしくは、そのどちらも、だろうか。だが、彼らのオーラ量も、体術も、クロロやパクノダには遠く及ばないものであった。


数分後には、彼らは虫の息となっていた。

念を使ってではなく、ほとんど体術での戦いであった。彼らは二人がかりで、まずはクロロに飛びかかった。まずは強いであろう男にダメージを与えてから、もう片方を倒す。戦術としては、正解であった。
しかしそれは、〈二人で飛びかかって、その対象の力を越えられる〉というケースにのみ、有効なものであった。結論を言えば、彼ら二人でかかっても、クロロ=ルシルフルという人物の実力には、到底及ばなかったのである。

きっと、念よりも体術に自信があったのだろう。確かに彼らは、一般人を凌駕している。しかし、クロロという人間が、あまりに常軌を逸している。敗因はただそれだけであった。

クロロは、小さな人物の腹を、強く蹴った。

「抵抗は無駄だと分かっただろう。吐け」

ひどく冷たい目が、小さな人物を見下ろしていた。この男には、逆らってはいけない。彼の本能は、そう警告をしていた。

「ハンター協会が、関わって、いる。それ以上は、言えない」

言葉の後で、ゲホッ、と深い咳を、小さな人物は零した。それに伴い、赤い液体が飛んだ。クロロに痛めつけられた体からは、言葉を発することすら難しいようだ。

「ほう、協会がか。つまり、お前たちはハンターか」
「ころ、せ。もう、これ以上は、言え、ない」
「殺す自由はこっちにある。お前に指図される覚えはない」

パクノダ。クロロがそう名を呼ぶと、彼女はまずは小さな男の肩のあたりに、手を置いた。

「あなたたちが、あの子、コウ・キサラギを監視する理由は、何?」

そう問うことで、いつもならば、彼女の中に情報が流れ込んでくる。しかし、何故か今は、全く流れ込んでこない。流れてきたのは、強い電流であった。強い衝撃に、彼女は思わず、小さな人物から手を離した。

「駄目ね。たぶん、この件に関しては、記憶にプロテクトがかかってるわ。何の情報も入ってこない。ここまで強固なプロテクトは、久々、ね。頭が痛くなってきたわ」

プロテクト、とは、パクノダのように、記憶を読みとることの出来る能力者から、記憶を探らせないようにする念能力のことである。
範囲は、包括的なものであったり、限定的なものであったりする。単に読みとらせない、という念の他に、読みとろうとしたら加害をする、という高度な念も存在する。頭が痛い、というパクノダの発言からすると、どうやら、後者の念が彼にはかけられているようだ。

パクノダは、同様の質問を、大きな男にも行った。結果は、同じものであった。

ポーカーフェイスの彼女の顔が苦しそうに歪み、その額からは、滝のような汗が流れている。その様子を、クロロは受信した。
どうやら、かなり強いプロテクトがかけられているようだ。これから、プロテクトがかけられていない情報を得ようと、あらゆる質問をする予定であったが、それは避けた方がよさそうだ。
そもそも、彼らにかけられているプロテクトの範囲が、包括的なものである可能性もある。そうすると、いくら読みとっても、何の情報も得られないことになる。そう考えると、彼女にかなりの負担を与えてまでこれを行う必要性は、ないだろう。

「なら仕方がない」

いつもならば、用のない者は即、処分をする。しかし今は、いつもは発生しない選択肢が発生していた。

「あの女に、プロテクトの除念をさせる」

そのフレーズに、彼らは息をのんだ。

「しかし、あの少ないオーラ量で、果たしてこの高度な念の除念が可能なのかは、疑問だがな」
「制約次第では、可能じゃないかしら」

もしかなり複雑な制約をクリアしているのならば、コウのオーラ量であっても、かなり広い範囲の除念を行うことが期待できる。パクノダの発言はその可能性を示唆していた。

「とにかく、本人に聞くとしよう。不可能であれば、全員処分して帰るとするか」
「除念師も殺すの?生かしておいて、私があの子の記憶を抜くって方法もあるけれど」
「ああ、確かにそうだな。能力に盗む価値がなく、あの女を生かしておく必要のない場合に、殺すとしよう。まぁ、ヒソカの話を聞いた限りでは、かなり不便な能力のようだが」

料理をし、その料理を食べることで除念がなされる。そうヒソカは述べていた。それが事実ならば、かなりの手間を要する能力ということになる。

「必要な条件が料理なのか、たまたま料理をしているときに条件を満たしているかで話は変わるわね」

その発言に、クロロは、ああ、と頷いた。

「本人に念についての情報を聞き出してから、盗むか盗まないかは決めるとするか。パクノダ。あの女にもプロテクトがかかっている可能性は高いが、念について読みとってもらいたい。プロテクトの反動にもう一度、耐えられるか?」
「問題ないわ。でも、きっとかかっているでしょうね」
「可能性は、高いな。しかし、試す価値はある。さっき読んだときには、プロテクトはかかってなかったんだろう?あの女には包括的にかかっていないと立証がなされただけで、可能性は格段にあがる」

ヒソカについて尋ねた際、パクノダはコウから情報を得ていた。その際にはパクノダは、障害なく彼女から情報を得ていた。それ故、クロロはそう推理をした。
パクノダは、そうね、と彼の発言を肯定した。


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