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そして、現在に至る。

「これから質問をする。嘘をつけば、その瞬間に殺す」

唾液が分泌される事すら許されない。それほどに緊迫した雰囲気を、求められている。それを察した彼女は、伏せていた視線を上げ、彼の目を再び見た。

やはり、そこに温度はない。彼の瞳は、黒色である。それは、彼女の出身である地の周辺でよく見られるものであるが、このあたりではあまり見ることはないものであった。しかし、彼の瞳は、彼女に親近感を一切抱かせなかった。光のないその瞳は、彼女にとって彼が、ひどく遠い存在であることを痛感させるのみである。

今は、歩数にして2歩ほど先から、彼が彼女に銃口を向けてきている状態である。先ほどとは違い、銃口とはかなりの距離がある。今、逃げ出せば、運良く逃げきれるかもしれない。しかし彼女の中には、彼からは絶対に逃げ切れない、と言える自信が不思議と生じていた。額に銃口はもう突きつけられていないのに、未だに、距離感0のあの感覚が抜けないのだ。彼の放つ威圧感は、実際の距離をチャラにしてしまう性質のものであった。

「団長、2人来てるわよ」

クロロとパクノダの二人のオーラと、彼女、コウのオーラの揺らぎに、何者かが気が付いたのだろう。彼女の額に拳銃を突きつけたその時から、オーラを纏ったものがこちらの方向へと、向かってきていた。それも、常人では考えられないスピードで。彼女の小さなオーラを知覚するのだから、かなりの腕利きと見ても良さそうだ。それ故、パクノダは彼に警告をした。

「ああ、分かっている。コイツから情報を聞き出してからでも、問題はないだろう」
「まぁ、そうね」

どうせ殺すんだから。女性は、そう言葉を発した。それは、私の事なのか、これから来るという二人の事なのか、それとも、全員の事なのか。言葉を咀嚼したコウの体が、ぶるりと震えた。

「さて、本題に戻るとするか。お前は、ヒソカとはどういう関係だ?」

ヒソカ、とは、先ほどまで来ていたあの彼のことだろう。どうやら、この青年たちと彼は知り合いらしい。

「ピエロのような風貌をした方、ですか?」
「ああ、そうだ。今日、和服を纏った女を連れて来店した奴が居るだろう。お前とそいつとの関係を、聞きたい」
「1週間前、ヒソカさんが初めてこの店にいらっしゃいました。彼はお子さまランチを注文され、軽く会話を交わしました。特に彼とは物騒な会話は、してません」
「本当みたいね」

コウの横へとやってきたパクノダは、彼女の肩に手を置き、そう追認した。

嘘発見機でも、内蔵しているのか。このお姉さんは。コウは、自分の肩に置かれた彼女の手に意識を働かせることはなく、そんなツッコミを入れていた。

「では、次の質問だ。お前は、幻影旅団を知っているか」
「幻影、旅団って」

彼女は目を見開いた。

「TVのニュースで見る程度みたいね」

パクノダのその発言は、もう彼女には届いていなかった。

彼女の小さなオーラは、また大きく揺らぎ始めた。ニュースで見る程度の知識とは言え、彼女はその集団の特異性を知っている。ある時は、沢山の人間を、猟奇的とも言えるような殺し方で虐殺をする。ある時は、美術館を襲撃し、沢山の財宝を盗み出す。一言で言えば、世界で1、2を争うほどに危険な犯罪集団、だ。

彼女は、声を震わせた。

「私、本当に、殺されるんですか?」

現実味を帯びてきた〈殺す〉というフレーズに、彼女はただ怯えていた。

「ああ」
「そう、ですか」
「怖いか?」
「そりゃそうですよ。普通の人間は、寿命が来るまで生きたいと思います」

その言葉に、パクノダがクスリと笑った。

「それに、私には、やらなくちゃいけないことがいっぱいあるんです」

彼女は、残りが少なくなった勇気を振り絞って、クロロを睨みつけた。殺気はないが、その視線に、クロロは少し戸惑った。死の到来を、彼女が避けたがる理由は何か?それは、単なる興味であった。しかし、それを問う前に、音が彼を妨害した。

「そこまでにしてもらえますか」

その声は、初めて聞く高さのものであった。


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