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それは、突然のことであった。キィ、と音を立てて、レストランの入り口が開いた。客がまた来たのか、珍しい。そう思い、いらっしゃいませ、と彼女、コウは発した。その瞬間に、何かが彼女の横をすり抜けた。

しかし、彼女はそれを視覚出来ずに居た。そしてただ、開いたドアを見つめていた。何も入ってこないし、ドアの外からは全く物音がしない。まさか、幽霊か。ドアを開けた人物が、既に店内に進入しているとは、気がついていない彼女は、恐る恐るドアの方向へと歩きだした。その時、彼女の後ろで、何かがカチャリと音を立てた。

不思議に思った彼女が振り返った瞬間、彼女の額に、何か冷たい物が当たった。それは、銃口であった。向けられた銃口の先には、彼女の額が。銃口の元には、スーツ姿の、端正な顔立ちの男性が立っていた。

端正だが、少し幼いような印象を受ける。きっと、20才かそこらの青年だろう。髪の色は黒く、短髪だが、前髪は、目のあたりまで垂れている。額には、包帯がぐるぐると巻かれていた。そう冷静に青年の容姿を見てみた。

しかし、どうして、ここに人が居るのか?何故、自分に銃口が向けられているのか?という数々の問題を、彼女の脳は処理出来なかった。彼女の思考は、停止した。

「そこにある椅子に座れ」

その言葉を契機に、彼女はハッと我に還った。しかし彼女は、声を発することが出来なかった。光の入っていない冷たい彼の瞳が、彼女から声を奪ったのだ。逆らってはいけない。彼女の脳は、そう警鐘を鳴らしていた。

先ほどまでマチたちが居た机の椅子に、彼女は腰を下ろした。彼のあの瞳を再び見る勇気は、彼女にはなかった。ただ俯いて、彼が発するだろう次の言葉を、待っていた。

その時。カツン、カツンという音が、入り口から聞こえてきた。興味を持った彼女は、少しだけ顔を横に動かし、入り口の方を見やった。端正な顔立ちで、身長の高い、グラマラスな女性が、入り口から入ってきていた。

「団長。どうするの、その子」

現在、このレストランの構成員は自分以外に二人しか居ない。今言葉を発した女性と、団長と呼ばれた男性。その事から考えると、この子、とは、自分の事だろう。そう察した彼女は、二人の会話をただ聞いていた。

「あいつに関する情報を引き出す」
「あいつって、まさか、新入りのこと?」
「ああ、念のためだ。少し不自然な提案だったからな、あいつの思惑を読む必要はあるだろう」

提案、とは、彼女、コウについてのものである。しかし、彼女はそんな事を知らない。内容のよく分からない会話を、ただ聞いているだけであった。


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