「それじゃ、そろそろ失礼しようか」
ヒソカがそう言うと、ああ、とマチは頷いた。
「ええと、食事代はいくらかな?」
ヒソカがそう問うと、彼女は快活な様子でこう述べた。
「定食は600ジェニーです。それがおふたつなので、1200ジェニーです」
それを聞いて、マチは鳩が豆鉄砲を食ったような表情を浮かべた。そんなマチを見て、彼女は戸惑った。
何か、問題がありましたか?そう問うと、マチははぁ、と深くため息をついた。
「客が言うのも何なんだけど、あんた、それで採算取れてるのかい?」
「え、この設定っておかしいんですか?」
今度は、彼女が一驚した。
「たぶん、他の店なら1000ジェニーは取ってるんじゃないかな」
ヒソカの示した基準を聞いて、そうですか、と彼女は漏らした。
「……ちょっと、お値段見直してみます。でも、今日はお二人で1200ジェニーで」
2、3秒ほど一考した後で、彼女が請求した金額は、初めと変わらない金額であった。
「そっか。それじゃ、これで。おつりはチップで」
彼が渡したのは、二枚の千ジェニー札であった。
「え、でも」
彼女は戸惑った。チップを頂けるのはありがたいし、チップを断るのは失礼にあたるが、これを受け取ってしまえば、提供した料理の料金以上の金額を受け取ることとなってしまう。痛し痒しの状況に、どうしようかと迷っている彼女に、ヒソカは言葉を付け加えた。
「ジャラジャラと小銭持つの好きじゃないんだ。よかったら受け取ってくれないかな?」
素直に受け取っておきなよ。マチがぶっきらぼうに言うと、彼女は相好を崩した。
「ありがとうございます、ヒソカさん、マチさん」
小さく頭を下げた彼女に、それじゃ、と別れを告げ、二人は店を出た。
さて、今回得た情報を、団長に報告しなければ。彼女の能力を解明するピースとなる情報を脳内で整頓しつつ、二人はアジトへの帰路についた。
そういえば、団長にはどんな用事があったのだろう。ふとマチの頭に疑問が浮かんだが、長年の付き合いがあっても謎の多い彼のことを、解明することは難しい。マチはすぐにその疑問を廃棄した。