ごちそうさま。
ヒソカとマチは、ほぼ同時にその言葉を発した。キッチンに居たコウは、その言葉に反応を示した後、二人のいる机へと歩み寄る。

「食器、お下げしますね」
「うん。ありがとう」

カチャカチャと小さな音を立てて、コウは皿を重ねてゆく。洗うのは、二人が立ち去ってからにしよう。そう思って、彼女はキッチンに立っていた。

「ああ、そうだ」

ヒソカは手招きをした。彼女は早歩きをし、テーブルの元へと向かった。

「キミに、聞きたいことがあるんだ」
「聞きたいこと、ですか?」

きょとん、という効果音が似合いそうな表情を浮かべ、彼女はそう聞き返した。

「オーラって、知ってるかい?」
「オーラですか?知ってますよ」
「そりゃ、そうだろうね」

彼女は念能力者で、オーラを使っているのだから。

「スピリチュアルの話ですよね」
「え?」
「少し前によくTVで特集をよくやってましたね。あまり詳しい事は分からないんですけど、前世が関わってるとか言いますよね」

白々しい。そうやって、とぼけるのか。いい性格をしている。

マチは、彼女に向けて念糸を発した。ヒソカはピクリと肩を揺らして反応を示したが、それ以外に行動を起こすことはなかった。

念糸は、何の障害を受けることなく、彼女の首へ巻き付いた。だが、どうもおかしい。もし、それなりの使い手なら、反射的に念糸を払いのけたり、避けたりするはず。

まぁ確かに、それにはかなりの反射神経が要されるのだから、出来なくても仕方がない。

しかし、彼女のオーラは少しも揺らがなかった。そして今も全く揺らいでいないことには、どうにも納得がいかない。

マチが彼女に巻き付けている念糸はとても細い上に、強度がある。強く引けば、彼女は、間違いなく死ぬ。

マチの能力など彼女は知る由もないのだから、その事実も彼女は知らないだろう。しかし、いきなり細い糸が発せられた。そして今、それが首に巻き付いている。この状況で、死という結末も考えられないようなアホでは、ないはずだ。

なのに、彼女のオーラは動きを見せない。何故なのか。

考えられる可能性は、2つしかない。
マチに殺意がない事を察しているか、オーラが見えていないか。
そのいずれかも、ありうる話であるのだろうか。

ケホッと彼女が咳をしたと同時に、マチは念糸を彼女の首から解放した。

「すみません、いきなり息苦しくなってしまって」

長い時間ではなく、更に強い力で首を絞められていたわけではなかったため、コウの体に現れた症状はせき込む程度で治まった。

「いいよ。キミが悪い訳じゃないしね」

彼女は、自分の身に何かが起きていたことを把握していなかった。そう、彼女は、他人のオーラが見えないのだ。そのため、彼が言っている意味をよく理解できずにいた。

風邪のウイルスが悪いということなのだろうか。とにかく、せき込むのはシェフとしてあまりいいとは言えない行動である。

申し訳ありません、と彼女が謝ると、ヒソカは、気にしないで、と返した。

「実は、オーラどうこうの話は、仕事でアンケート調査をやっていてね。少し意見を聞いてみたかっただけなんだ。別に変な宗教とかの話じゃないから、安心して」
「あ、そうですか。あまりいい回答が出来なかったんですけど、参考になれば嬉しいです」
「充分参考になったよ、ありがとう」

君は、使えるって事が分かったからね。その言葉は飲み込んで、コウを見つめると、彼女は首を傾げた。


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