お待たせしました。そう告げた後でコウは、小さな皿を何個か置いたトレーを、二人の目の前に一つずつ置いた。

「生姜焼き定食です。生姜焼きと、野菜炒めと、マカロニサラダと、お味噌汁と、お漬け物と、ご飯のセットです」
「へぇ、あんまりここらじゃ食べられないような料理だね」

純和風に近い料理たちを目の当たりにし、ヒソカは感嘆した。

「私の母国では、よく作られている料理なんですよ」

そう説明を加えると、彼女はにこりと微笑んだ。そして彼女は、ゆっくりとキッチンへと戻っていた。

いただきます。そう言うとマチは、自分の左手を眺めながら、恐る恐る料理を口へと運んだ。ヒソカは、その光景をただ見守っていた。

よく咀嚼をし、飲み込んでみる。すると、先ほどまで左腕に巻き付いていたバンジーガムが、消滅をした。除念をされたのだ。

マチは、箸を止めた。
ヒソカの話を信じていなかった訳ではない。しかし、こうして除念される光景を見たのは初めてであったため、簡単には現実を受け入れられずにいる。

除念とは、こういうものなのか。

例えば、旅団の誰かが強い念能力をかけられたとしたら。自分たちは、念をかけるだけしか出来ないため、仲間に対して何も出来やしない。
しかし除念師は、仲間を助ける事が出来る存在なのだ。こうして、除念師という存在の必要性を、マチは痛感した。

マチの心境を知らずに居るコウは、箸を止めたマチを不安げに見つめていた。

もしや、口に合わなかったのだろうか。それとも、体調が悪いのだろうか。

そう心中ではうろたえながらも、表向きでは平生を保っていた。キッチンにて使った調理機器を洗浄しながら、二人の様子を伺っていた。

一方、除念を見届けたマチは、料理を味わうことに専念する事とした。一口目は除念にばかり気を取られていて、味の方には気が回っていなかったのである。パクリともう一口を口に含むと、旨味が口の中いっぱいに広がってゆく。

「うん、美味しい」

意識せずに、その感想が口から漏れていた。お世辞ではなく、料理の一つ一つが、美味しい。

そんなマチの一言で、キッチンの空気がぱぁっと明るくなった。その光景は、とても微笑ましいものであった。

「だろう?」

マチが除念された事と、マチの事を気にかけていたコックの肩の荷が降りた事を確認した後で、ヒソカも料理に手をつけ始めた。

「うん、美味しい」

前に出された時に比べてみると、料理は少し冷ましてあった。なるほど、彼女はあんな一言を記憶していたというのか。
温度は下がっているはずなのに、何故かこの料理は、前の料理よりも温かみを帯びているような気がした。


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