コウの観察を終えたマチは、ヒソカに視線を集中させる。その視線に、なんだい?と甘い声で彼は応える。そんな彼に、マチは強い口調で質問を投げかけた。その声量は、調理場へと声が届くものであった。

「あんた、あの女とはどんな関係なんだい?」

あの女とは無論、コウの事である。ヒソカもそれには即座に察しがついていた。

「……唐突だね」

彼は苦笑いをした。

「あたしは、あんたとあの女に何らかの変な繋がりがあると踏んでんだ」
「繋がり?」
「ああ、あの女と共にクロロをやるために、ね。二人でこそこそと何か計画でもしてるんだろう?……もしあんたがクロロに手を出すんなら、あたしはあんたを殺すよ」

そう言い放つマチの瞳は、ただただ冷たかった。彼女は本気だ。好戦的なヒソカを挑発するようなその瞳を見て、彼はゾクリと鳥肌が立てた。


調理場に居るコウは、その光景をソワソワしながら眺めていた。勿論、調理をする手は止めずに。

マチさんの言っている、『女』って誰ですか。
『やる』って何の事ですか。

流れ的に考えて、クロロという方を、ヒソカさんは狙っているのだろうか。それも、あの女、という人物を味方につけて。

マチさんっていう美人なカノジョが居るのに、クロロさんという人にまで手を出そうとするとは。浮気ですか、ヒソカさん。そんな事をするから、殺されるなんて言われちゃうんですよ。

そうコウは、的外れな推察をして、ヒソカを責めていた。

彼女は、クロロと言う人間を知らない。勿論、彼女がこのまま平穏に生きてゆけば、知る機会もないだろう。クロロ=ルシルフルという人間と彼女は、生きている世界が余りにも違いすぎているからである。彼女には、そんな事実を知る由はない。


そして、実際は浮気ではなく、通謀を疑われている本人であるヒソカは、ただ笑っていた。

「……身に覚えがない話だなぁ。特に、彼女と僕に前々から接点があったという点は」
「そんなはずはないよ。そうでなきゃ、クロロに紹介しようだなんて思わないだろう?偶然にしては、出来すぎた話だ」

数少ない念能力者の中でも、除念という能力を持つものは極稀と言われている。ヒソカが言ったように、街を歩いていたら見つかった、というようなお手軽な存在ではない。

「ふう、分かったよ。疑うのなら、キミの手で彼女を処理してもいいよ。僕には何の害もないからね。それなら問題ないだろう?」

事実、彼はコウを使ってクロロと二人きりになるきっかけを作ろうとしただけである。惜しくはあるが、また違う材料を探せばいいだけである。

「なら、そうさせてもらうよ」

しかし、マチは、どうしてこうも彼女を始末したがっているのか。
彼女の行動を振り返って考えてみた結果、ヒソカはある可能性を推察した。彼女は、コックに牽制を仕掛けたのではないか、と。
そう、マチのこれらの行動は、すべて作戦であった。

あの女、もといあのコックが関係者であるなら、今の会話の流れを聞いて、あたしを警戒するに違いない。

マチはそう踏んで、調理場に居たコウにも聞こえるような声量で話していたのだった。自分が殺されるかもしれないという事情を理解した上で、それに見合った行動を取れば、彼女はクロだ。

では、その行動を引き出すには、どうしたらいいのだろうか。マチはただ、静かに考えていた。

ヒソカとマチの会話が途絶えたのは、コウが調理と盛りつけを終了したタイミングとほぼ同じであった。
嗚呼、二人のこの重い空気が、食事によって少しでも和らぎますように。

そう思いながら、コウは、二人の元へと料理を運んで行った。


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