彼女を包んでいた小さなオーラが、今は具材や調理機器をも包んでいる。オーラを放出している、というよりは、オーラの中に、それらが飲み込まれているかのような光景だ。彼女の全身から、オーラは離れようとはしなかった。
オーラは、彼女の体を強化している訳ではない。オーラは依然、全身を覆っているままである。
オーラが、具材や調理機器の形状や性質を変えている訳でもない。そして、調理機器などを具現化している訳でもない。
では、彼女の念の系統は何なのか。考えられるのは、オーラ自体が彼女を操るという操作系か、全てに該当しない特質系だろう。
しかし、純粋な操作系であるとしたら、次々と作り上げてゆく料理たちにオーラが掛かっているという事実に、説明がつかない。まだ断言は出来ないが、放出系の性質を持った操作系、若しくは特質系と言う推理が、一番近いものなのだろう。
なるほど、なかなか面白い能力だ。
マチとヒソカは、同時にこのように同じ推理を行っていた。
推理を終えたヒソカは、満足げにマチと彼女を眺めている。しかしマチは、まだ推理を続けていた。
彼女のような除念師は確かに魅力的であり、旅団に置いておきたい気持ちはある。しかし、旅団に入った者が必ずしも旅団に忠誠を誓うとは限らない。万が一、反逆者が内部へ入れば、旅団の秩序が乱れてしまう。
その例が、ヒソカである。
彼女の勘によれば、ヒソカはクロロの命を狙っている。だが、ヒソカ一人が相手ならば、きっとクロロは命を奪われる事はない。だから旅団員は、ヒソカが旅団にとって有益である限り、野放しにする事を暗黙の了解としている。
問題は、除念師である彼女が旅団に入り、ヒソカの援護に回った場合である。それは、脅威である。彼女がどこまで除念を行えるのかはまだ推測が出来ないが、もし仮に、クロロがヒソカに与えたダメージを0にするとしたら。クロロは間違いなく、ヒソカに殺される。
もし、彼女がヒソカお抱えの除念師だとしたら、その可能性はうんと高くなる。ハイリスクハイリターンな事ばかりをする旅団とは言え、団長を失うようなリスクは背負いたくはない。
クロロの代わりの存在など、この世にはないのだ。
俺よりも旅団の利益を優先しろ。そんなクロロの突っ込みが入りそうな考えでも、これは旅団員ならば誰もが思っている事だ。マチは、心中で苦笑をした。
そしてマチは、さらに推理を深めてゆく。
マチがヒソカに対して、警戒をしているのは、誰の目から見ても明白である。クロロを狙っているのが明白である限り、警戒せざるを得ない。だからこそ、ヒソカはあくまでも、その牽制のために自分にアタックし、その警戒を緩めようとしているのではないか。
好きになったから、というような抽象的な理由よりも、こちらの方が理にかなっている。
ヒソカに抱え込まれることによって、クロロに害を与える可能性があるのは、この女だけでいい。
マチがヒソカの好意を素直に受け取ろうとはない理由は、ここにあった。