マチは、メニューを眺めた。現在時刻は13時で、ちょうどお昼時である。しかし、元々気乗りがしていなかったせいか、並んでいる文字を眺めていても、食欲がさほど湧いて来ない。かと言って、頼まないのも何だか気が引ける。
ならばいっその事、と、マチはコウの居る厨房の方へと声を飛ばした。

「ねぇ」
「はい?」
「何か、テキトーにまかせる事って出来るかい?特に食べたいメニューが浮かばないんだ」
「はい、出来ますよ」

聞き様によっては失礼なその物言いに対して微笑むと、コウは小さく顎を縦に揺らした。

「じゃあ、僕もそうしようかな」

パタンとメニューを閉じた後、ヒソカはそう便乗をした。

「かしこまりました」

そうして注文を受けた直後だった。ああそうだ、と、彼女は話を切り出した。

「その前にお聞きしたいんですが。マチさん、左腕、ケガでもなさってるんですか?」
「は?」
「間違っていたらすみません。何となくそう思って」
「……確かに、ちょっと左手が使いにくい気はするね。でも、別に痛みとかはない」
「そうですか。それなら、洋食以外にしておきますね」

その発言の意図を、ヒソカは即座に理解した。

「なるほど、両手を使うからだね」

そうですね、と言って彼女はにこりと笑った。

「では、少々お待ちくださいね」

彼女は仕事をすべく、厨房へと戻っていった。その姿を、マチとヒソカはただ見つめていた。

実は、マチの左手には、ヒソカのバンジーガムがぐるぐると巻き付けられていた。勿論、それはマチの同意を得てなされているものである。その目的は一つ。彼女、コウの除念能力を、検証するためである。

ヒソカの体から離れ、マチの手首に巻き付かれたそれは、既に強度をなくしている。故に、微弱なオーラしか放っていない。

彼女のオーラの大きさを見た限りでは、目に凝を行わない限りはこれを見破る事は出来ない。しかし、彼女はマチの腕が、彼女は見たことのないはずの平生と違っている事を見破ってみせた。

「目に凝を行っている様子はなかったけど、見破ったみたいだね」
「自然に見えているのか、はたまた野生の勘なのか。どちらでも面白いね」

二人はそう小さな声で囁き合った。席から厨房までは少し離れている。故に、コウの耳が拾う音は、調理の音がその割合の殆どを占めているはずである。この席の話声など、殆ど聞き取れないであろう。仮に聞き取れたとて、話の対象を暴く事は出来ないはずである。

そしてマチは、彼女の調理をただ眺めていた。ヒソカはそんなマチと彼女の様子を包括して観察していた。


prev next

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -