彼らは、タクシーを降りて、獣道へと入った。

獣道というのだから、獣が通るべき道である。その名に相応しく、足場が悪い。
その上、この付近は木が多くあり、陽の光が入らない。そのため、視界も悪かった。

しかし、それはやはり一般論でしかなかった。
彼らは易々と、崖の淵へとたどり着いた。


「まさか、ここを降りるのかい?」

マチは淵から崖を見下ろした。

ヒソカは笑顔を浮かべて、うん、と頷いた。

「随分と高いね。直接飛び降りたら足をやっちゃいそうだ」

彼女がそう評する通り、現在地から目標地点までは30mほどあった。

「そうだろう?だから僕も、崖を伝って降りたんだ」

へぇ、そうなのかい。そう述べた彼女の声は素っ気がなかった。

「面倒だからあたしは先に行くよ」

マチの指先から、細いオーラが繰り出された。

彼女は、近くにある木の幹に念糸を巻きつけると、崖へと飛び降りた。
彼女が落下するのと比例して、糸もどんどん伸びてゆく。そして彼女の足が地に付く少し前に、彼女の念糸の伸びが停止した。彼女の意志で止められたのだ。

そうしてピンと張られた糸は、その反動で崖の方へと戻ろうとしていた。このままでは崖へと突っ込んでしまう。それを避けるために、彼女は直ぐに念糸を外した。すると、彼女はそのまま真下へと落下をし、見事に着地をした。

そうして、彼女は30m下へと瞬間移動してみせた。

なんだ残念、と彼は呟いた。彼女が怖がる姿を期待していたのだが、それを見る事は一生叶わないのかもしれない。

そう思いながら、ヒソカは手からゴムを繰り出した。そしてマチと同じように、彼も瞬間移動をしてみせた。

「おまたせ」

マチは目を見開いた。その後に、何かを思い出したかのように、ああ、と声をあげた。

「そうか、あんた確かゴムみたいなの出せたんだっけか」
「そうだよ」
「じゃ、何で前回は使わなかったんだい?」
「念能力者が居たから、警戒して絶を使ってたんだ」

念はオーラを使用するものである。源を絶っていれば、使えるはずはない。

「なるほど。で、今は警戒しなくていい訳か」
「彼女しか居ないからね」
「例の除念師サマか」

その呼び方には、ほんの少し、悪意が込められていた。

「そう。彼女は無害だよ」

その発言はマチにとって意外なものであった。ヒソカという人間は、このように他人に信頼を寄せる人間だっただろうか?

彼女の中でのヒソカと、今のヒソカの間に生じたズレは、どのような意味を持つのだろうか。考察を巡らせるが、違和感を拭い去るものは何一つ思い浮かばなかった。

「ふぅん。やけに肩を持つんだね」
「僕が身を以て証明してきたからね」
「拷問にでもかけたのかい?」
「いいや、寧ろ、僕がかけられた側かな」

ヒソカが生きるか死ぬかの賭けをしていた事を、マチは知らない。

「意味が分からないね」
「後でゆっくり話をするよ」

彼らは、会話の舞台をレストランへと移すべく、一歩踏み出した。


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