さて、問題は交通手段であった。この辺はバスや鉄道は通っておらず、選択できる交通手段は二つしかないのだ。

その選択肢の一つは、徒歩移動であった。しかし、ヒソカの話によれば、歩いてそのレストランへと向かえば2時間は掛かるとのこと。

彼らの身体能力をもってすれば、それくらいの運動量による体力の消耗は、全く問題のないことではある。
だが、彼女の吐いた"めんどくさい"という感想に、彼は同意した。そして彼らは唯一の選択肢を選んだのであった。


大通りに出ると、お目当てのものは直ぐにやってきた。

ヒソカが右手を上げると、ゴムの擦れる音と共に、物体は動きを止めた。
そして、彼らの前へとやってきたドアが、自発的に開いた。そこには、初乗り300ジェニーと書かれていた。

誘い込まれるかのように、ヒソカとマチが車内へと入ってゆく。その後、ドアはまた自発的に閉まった。


「どちらまで?」
「レストラン・キサラギまで頼めるかい?」

タクシーのドライバーの問いかけに、ヒソカは愛想良く答えた。

すると、ドライバーは、へぇ、と声を漏らした。

「あんたがた、ハンターなのかい?」
「いや、違うよ。善良な一般人さ」

どこがだい、という突っ込みが生まれそうだった口を、マチはなんとか押さえ込んだ。

「すると、ハンターは善良じゃない訳か」

ドライバーは楽しそうに笑い声をあげた。

「でも、どうしてハンターだと思ったんだい?」

レストランに向かうこととハンターであることがイコールで結ばれるのならば、ハンターは世に沢山存在することとなる。

そう問うと、ドライバーはあっけらかんと答えた。

「いやね、あそこはハンターの人たちがよく行く所だから。おたくもそうなのかと思ったんだよ」
「僕らは一般人だよ。この間一人でプラプラとしていたら、たまたまあのレストランを発見してね。美味しかったから、今度は人を誘って来てみた訳さ」
「へぇ。俺らには、あんな絶壁を下る勇気はないけどなぁ」
「確かに、あそこはなかなかの絶景だったね」
「何回か行ってみようと試みたんだが、俺には無理だ。肝が冷えてしゃーねぇや」

彼の言葉通り、レストラン・キサラギの立地は肝を冷やすものである。
しかしそれは、一般人であれば、の話である。非凡な存在ならば特にどうとは思わず、難なくレストランへと辿り着く事が出来る。
そしてその存在の代表格が、ハンターなのである。

だが、そもそも何故、あんな崖を伝ってまで、ハンターたちがあのレストランに行く必要があるのだろうか?ヒソカはそう疑問を浮かべていた。

料理が美味いから、という理由だけならば、世に名を知られている料理人の店に行けばいいこと。彼女の料理には、何かがあるのだ。その何かにはたぶん、彼女の能力が絡んでいる。

ヒソカは身震いした。


「お客さん、ここまでしか行けないんだが、よろしいかね?」

ドライバーは車を止めた。どうやら、ヒソカがあれこれと考えている内に、到着してしまっていたようだ。

着いたのは、崖まであと50mほどの地点だった。
この先はけもの道となっていて、四輪車が通行できるような広さは確保されていないようだ。

「だいぶ道が狭いからね。構わないよ」

ユキチの描かれた紙を渡し、お釣りはいらないよ、とヒソカは告げた。その価値は、モニターに示された金額の三倍はあった。

しかし、ドライバーはヒソカの言葉を無視して、釣り銭を用意していた。

「俺はいいから、この金、あの子んとこに落としてきてやれ。赤字経営してるらしいからな」

ああそうだ、とドライバーは発言を付け加える。

「このレストラン、殆どのドライバーには知られてないんだ。だから、またここにタクシー使って来たかったら、ここに電話してくれ。大抵は事務所で暇してっから、直ぐに向かってやらぁ」

そう言うと、電話番号だけが書かれた名刺をヒソカに渡した。

「それじゃ、また」

そう告げ、ヒソカたちはタクシーを降りた。

ドライバーは左手を挙げてそれに応えた後で、その場を去っていった。


「念能力者だから警戒してたんだけど、たぶん、僕と同じ善良な一般市民だね」

そう、彼のオーラは、留まっていたのだ。

「アンタと同じなら善良じゃないよ」

念願だったツッコミをすると、ヒソカは苦笑した。

「キツいなぁ、マチは」


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