ヒソカがコウを見つけてから、一週間が経った。

彼は彼女に会った直後、仲間へと報告をしようと思い、アジトへと向かったのだが、そこは蛻の殻であった。

そうだ、確か遠方へと仕事に行くと言っていたなぁ。先日、同行するように電話を受けたのだが、面倒だからと断った事を彼は思い出した。

確か、今日から一週間と言っていた。ならば、帰宅を待つまで。そう決め、彼は時間を潰していた。


そして一週間経った今、彼は再び、アジトへと足を運んだ。彼は、廃墟へと足を踏み入れた。

廃墟の中には、常人ではないものの気配が12個存在している。それらは最早感じ慣れたものであった。此処は彼のアジトでもあるからだ。つまりは、彼もまた、常人ではないという事である。

このアジトは、犯罪集団、幻影旅団のものである。ヒソカはつい最近、このメンバーになったばかりであった。彼は、ある人物の姿を探すために周りを見渡した。そして、その標的が視界へと入ってくると、彼はその名を呼んだ。

「団長」
「なんだ、ヒソカ」

読んでいる本の頁を捲りながら返事をした人物は、クロロ=ルシルフル。幻影旅団の頭であり、団長と呼ばれている。彼こそが、ヒソカのお眼鏡に叶った者である。

自分を超えるかもしれない強さを持つ彼の気を引くために、ヒソカは先ほど得た材料を提供する事にした。


「ちょっとした土産話を聞いてくれるかい?」
「聞く価値があるならな」

彼はまた頁を捲った。まだその態度は素っ気ないものである。

「そりゃあもちろん。旅団に有益な事だよ」
「そうか、なら聞こう」

彼は本を閉じ、ヒソカの方へと視線を向けた。
しかし、ヒソカへ向けられた視線は一つだけではない。この場に居る者全員が、彼を見つめていた。

まるで怪談話が始まるかのような静けさの中、ヒソカは語り始めた。


「一週間のことだよ、町をフラフラしていたら、仄かなオーラの気配がしたんだ。それは、余り感じたことのない質のものだったから、興味が沸いてね」
「感じたことのない質?」
「例えるなら、洋楽を初めて聞いた中学生のような気分だったよ」

何だよそれ、と発したのはフィンクスだった。どうもヒソカの例えにピンと来なかったようだ。
新鮮だってことさ、とヒソカが言い直すと、彼は頭上の疑問符を感嘆符へと進化させた。
ヒソカは、続けた。

「その発生源に近付いてみたら、こじんまりとしたレストランがあったんだ。そこには、絶を使いながら近づいたよ。感づかれたくないからね」

「そこに居たのは、ハンターと、20才くらいの女の子だったよ」

「どっちが不思議な念の発生源かは、一目瞭然だった。どっちだと思う?」

標的にそう問いかけると、彼は顎に手を掛けた。

「面白い話、という前置きから考えると、女の子だろうな」
「正解。ハンターの発しているオーラは、感じたオーラとはあまりにもかけ離れていたからね」

「でも、不思議なことに、彼女には小さなオーラしか留まっていなかったんだ」

「それで、彼女はレストランのオーナーでコックだという。それなら、料理にヒントがあるのかもしれない、と思って料理を頼んでみたんだ」

「料理からは、微細ながらオーラが感じられたよ。そして食べてみたら、不思議な感覚がしたんだ」

「団長も経験があると思うんだけど、放出系の念は、体に当たるとその箇所に残ったままになる。勿論、時間が経てば消えるけど、強い念能力者の念は、下手すれば一週間くらい残ったりもする」

それは所謂、疲労の一種である。頷いたのはクロロだけではなかった。
念能力者であれば、経験のある話だからだ。

「僕はその日、一度だけ、放出系の念を受けたよ。硬で弾いたけどね。それでも、身体に触れたことに違いはない。だから、僕の身体には彼の念が残っていた」

まぁ、始末したせいか、残った念は強さを増した訳だけどね。そう言って笑うヒソカは、狂気じみていた。

「でも彼女の料理は、僕からその念を取り除いた」
「除念師か」
「そうだろうね」
「除念師のコック、まさに天職だな。興味深い」
「それで、旅団に除念師を抱え込めたら、凄く有益じゃないかな?と思って、話をしたんだ」

クロロは、顎に手を当てた。

「実力にもよるが、優秀であれば有益だな」
「でも、僕一人じゃ、たぶん彼女の力量は分析は出来ない。現に、その接触だけでは何も得られなかったしね。だから団長、僕に着いてきてくれないかい?」

ヒソカは、旅団のために献身的になっている訳ではなかった。
彼は常に、クロロと交戦するタイミングを伺っている。彼は、団長と二人きりになるチャンスを得るためにこの情報を提供したのであった。

「それならあたしも行くよ、団長」
「マチ」

しかし、旅団員はそれを許さない。毎回、こうして機会を潰すのである。
それはヒソカを意識してそうしているのかもしれないし、ヒソカの狂気にあてられて、無意識にそうしているのかもしれない。唯一言えることは、旅団員は皆、ヒソカを警戒している、という事である。

「あたし、人を見る目なら自信があるんだ。それに、男二人だと怪しまれるよ」

それは正論だった。

「それもそうだな」

クロロは首を縦に振った。マチの同行を許可した。

「パクは連れて行くのかい?」

真実を得るには、彼女を連れて行った方が早い。

「今日は下見をするだけだから、いいだろう」

しかし、クロロはそうはしなかった。何か考えがあるようだ。

「俺も行くぞ、団長」

フィンクスは腕を回した。

「大人数では怪しまれるからな。また今度頼む」

しかし、空回ってしまった。彼は肩を落とした。

「振られたね」
「うるせーな」

クスクスと笑うフェイタンに、フィンクスは舌打ちをした。




「マチ、ヒソカ。悪い、今日はイルミとの約束があった」

クロロは廃墟を出るなり、そう言い放った。

その言葉にマチは、げっ、と声を漏らした。3引く1は、2だからだ。


「それは残念だなぁ。団長、また今度」

上擦った声で、ヒソカは別れを告げた。

「残念そうには全く聞こえないがな」

クスリと笑うクロロに、彼は手を横に振った。

「いやいや、そんな事はないよ」

そうは言うが、彼の頬は緩んでいた。

「まぁいい。マチ、後は頼んだ」
「あいよ」

マチの声色は、暗かった。


「団長が居ないんなら、あたしは帰るよ」

ピラピラと手を振る彼女を、彼は言葉で引き留めた。

「職務放棄かい?」
「身の安全の方が大事なんでね」
「今日は何もしないよ。約束する」

彼は、合わせた掌を顎のラインに合わせた。その仕草は中性的で、愛らしさすら感じられるものであったが、彼女の態度は冷たかった。

「ピエロが何を言うか」
「何を頼んでも構わないよ?」
「奢りってことかい?」
「いつもそうじゃないか、子猫ちゃん」

その言葉を受けて彼女は、その甘さを吐き出すかのように、うげ、と舌を出した。その警戒心の強さは彼の称するように、猫そのものであった。

「行こうよ、マチ」

懇願する物言いに、マチはついに折れた。

マチはヒソカが嫌いなのではない。少し苦手なだけなのだ。好意を寄せる素振り一つ一つに、胡散臭さしか感じられずにいる。彼女は天邪鬼だった。


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