さて、お子さまランチは何が乗っていただろうか?

本来、コウくらいの年であるのならば、それは、10年以上前に口にしたものであろう。
しかし、彼女が最後に口にしたのはまだ5年前のことであった。何とか、イメージは残っていた。

そうして、記憶を頼りに、彼女はお子様ランチを作り始めた。

なるほど、何ともコックらしい念だ。体を震わせながら、ヒソカはその様子を至極楽しそうに眺めていた。
彼は、漸く正答という名の酒を得られた事で、酔い心地になっていた。

そんな彼の様子に気づく事なく、コウはお子様ランチに必要な調理を済ませると、それらをプレートへと盛りつけた。

しかし、初めに完成させた品を一望してみると、ある物が足りない事に彼女は気がついた。

それを作るヒントを求めるため、彼女は彼に声を掛けた。

「お客様」
「何だい?」

冷たい水を体に掛けられたかのように、そう声を掛けられたヒソカは、酔いから醒めた。

「これから料理に刺す国旗を作るんですが、出身の国ってどちらですか?」

足りないものは、マウントフジに登頂した際に刺す旗を象徴したものであった。

「うーん…君の出身は?」
「ジャポンです」
「じゃ、それを描いておいてくれるかい?」
「いいんですか?」
「うん」

お子様ランチを知っていたり、出身国をはぐらかしたりと、何とも謎の多い人だ。きっと、名前を尋ねてもはぐらかされるのだろう。

そんな事を思いながら、コウは小さな紙に日の丸を描き、それを爪楊枝に付け、国旗を完成させた。

そして、彼女が次の料理に取りかかろうとした時だった。そうだ、と声を挙げて、ヒソカは彼女に質問をした。

「ナポリタンって作れるかい?」
「はい、作れますよ。お乗せしますか?」
「お願いしたいな」
「かしこまりました」

柔軟に料理の品を変える事が出来るのが、この小さなレストランの利点である。
コウは快諾をし、また調理へと戻った。

しかしヒソカは依然、彼女に話し掛ける事を止めようとはしなかった。

これも、このレストランならではの事である。
時間を潰すものを置いていない上、他の客が居る事は滅多にない。それ故、客と距離の近い位置に居る唯一の店員と会話が生じるのはごく自然な事である。


「君、店長さんなんだよね?随分若く見えるけども」
「そうですね。今年、二十歳になったばかりですので」
「ふぅん。でも確かに、それくらいに見えるよ」

ハタチと言って、驚かれる事をコウは期待していた。
しかし、その反応は得られなかった。驚いたのは彼女の方であった。

彼女の住む場所は、西洋人が多く住む街である。
彼女の顔立ちは彼らから見れば幼く見えるらしい。彼女が実年齢を明かした際には、いつも年を上に誤魔化しているように見られてしまう。

しかし、彼は違った。

さて、ジャポン特有の料理を知っていたり、日本発祥のスパゲティの料理名を知っていたり、彼女の年齢に違和感を持たなかったりと、彼はどうも彼女と近い感覚を抱いているようだ。

きっと彼も、ジャポン人なのではないか?そんな疑惑を抱きながら、彼女は調理を進めていった。


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