「どうして、茉莉さんが入れ替え戦に参加することになったんですか?」

徳川は、茉莉の部屋へと招かれた。なんでも、話したいことがある、との事だ。彼は、彼女の部屋に入り、二人掛けのソファーに座るように促された。彼女はその隣に座った。その後で、彼はこう聞いたのだった。

「それはね、じゃーん」

彼女は、机にあった封筒を、手に取った。その中から、二枚の長方形の紙が、現れた。

「それは…チケット、ですか?」
「うん。デ杯、今年は日本でスペインと当たるじゃない?」
「はい。行こうと話をしていましたね」
「一般販売はまだ先だけど、実はチケットをゲットしちゃいました。これがそう。しかも、VIP席」

その言葉に、徳川は目を見開いた。VIP席、それは、ただの大学生が手に入れられるような代物ではないからだ。

「どうして、茉莉さんがそれを?」
「齋藤コーチと、賭けをしてたの。入れ替え戦で1番コートの選手を、1人でもいいから1軍に勝てるように指導をして下さい。そうしたら、このチケットを手配しておきますよって。ということで、この冬はこのチケットで試合観戦をしましょう、って事で決まりだね」
「俺から逃げていたのは、この賭けのせいですか?」
「うん。驚かせたかったのと、この賭けがバレたらやりにくくなっちゃうなって思ったから、ずっと逃げてたの。ごめんね、徳川くん。許して、くれる?」

一生懸命弁明をする彼女が、可愛らしい。彼は、彼女へと少し意地悪をすることにした。

「キスを」
「へ?」
「あのときのように、キスをしてくれたら、許します」

彼女の顔が、途端に赤色に染まった。

「な、なんで?」
「あのときの茉莉さんが、可愛かったので」

あの時。それは、徳川と宿舎の裏で会ったときのことだろう。数えるほどしか言われていない甘い言葉に、彼女は心中で悲鳴をあげた。

「そういう、歯が浮くような台詞を…」
「してくれないんですか?」
「す、するよ。今日の主役のお願いだもんね」

あのときは焦ってたから、勢いに任せて出来たけど、落ち着いた場面で要求されると恥ずかしい。彼女がスーハーと深く息を吸うと、徳川は笑った。
目、瞑って?彼女の言葉に従って、彼は目を瞑る。ニ度目だからだろうか、彼女のキスは、少しだけぎこちなさが緩和されていた。

徳川くん、と彼女が名前を呼んだ。

「誕生日、おめでとう」

彼女は、はにかんだ。

誕生日が終わる。来年もこうして彼女が、目の前に居てくれたら。そう思いながら、徳川は彼女からのキスに上書きをした。


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