7月が、後半に差し掛かった。来週の金曜日、7月27日に、1軍と2軍の入れ替え戦が行われる。2軍がどのようなオーダーを組んでくるのかを読み、対策を練らなくてはならない。そうしなければ、1軍から引きずり落とされることとなる。そんな状況のせいか、1軍内は少し、ピリピリとし始めていた。

徳川が茉莉と少しぎこちなくなってから、もう1週間が経とうとしていた。不安ならば、聞けばいい。徳川の下した結論は、そういったものであった。

そんなときに、彼は宿舎の裏で、彼女とバッタリ会った。今は昼の休憩時間で、皆は食堂へと行っている。周りは静かだった。木々の葉が風でそよぐ音が、よく聞こえる。

「これから、お昼?」

彼女が浮かべているのはやはり、ぎこちない笑みだった。

「はい。茉莉さんも、ですか?」
「うん。これから、朋香ちゃんと桜乃ちゃんと、待ち合わせなの。それじゃ、またね」

彼女は彼の横をすり抜け、宿舎へと入ろうとした。
言葉が、彼女に届かない。その前に、彼女は届かない場所へと直ぐに逃げてしまう。徳川は、彼女の進路を腕で塞いだ。

「徳川、くん?」

彼女が、彼を不安そうな目で見上げた。彼の前には宿舎の壁に背を預ける彼女が居る。日陰となっているここは、壁はコンクリート製だが、日陰にあるため、外気とは違って冷たさを保っている。

「最近、2軍の人たちと仲がいいみたいですね。何か、あるんですか?」
「う、ううん。ないよ、何も」

彼女の表情は、少しひきつっていた。それが不自然なものだと、彼には分かっている。つまり、彼女と2軍の選手の間に何がある、という事だ。

彼女が隠したいというのなら、それを尊重すべきだろう。しかしそれでも、知りたいと思ってしまう。彼女にとって、何の障壁もない。そんな存在に、彼はなりたいと思っている。
隠し事はある、でも言えない。それならば、まだ彼女にとって必要な存在である可能性は、ある。しかし今は、どう見ても何かを隠しているのに、その存在すらも隠そうとしている状態だ。彼女の心の中の一部にではなく、彼女の心そのものにすら、入室が許可されないのだ。

俺は、そんなに頼りないのだろうか。俺は、彼女にこんなにも依存しているのに。徳川は、唇を少し噛んだ。


「茉莉さん」

地面を見ていた彼女は、呼びかけを受けて、顔を上げた。そこに居たのは、不安そうな目で自分を見つめる、徳川だった。

「俺を、拒まないで下さい」

彼女の瞳が、揺れる。縋るように彼女を抱きしめ、彼女の肩に自分の頭を乗せる。ああ、子供じみている。そうは思っても、自分の感情を止めることが出来ない。徳川は、彼女の肩の上で、小さく息を吐いた。

徳川くん、こっち、向いて。彼女がそう言うので、彼は彼女の肩から、顔を離して、彼女を見た。彼女の顔が、彼に近づく。彼女はぎこちなく、一瞬だけ唇を重ねた。

「ごめんね。徳川くんに隠し事、してます。でも、今は言えないの。その、言えるときになったら、言うから。徳川くんが頼りないからじゃなくて、私の問題で、なの」

顔を真っ赤にしながらも、彼の目を見据えて、彼にそう弁明をした。

「徳川くんのこと、頼りにしてるし、大好きです。でもね、ここは私が頑張らないといけないところなの。もう少しだけ、頑張らせてください」

彼女は今度は、徳川の手をぎゅっと握った。

自分の行動は、どう考えても子どもじみている。目的のための行動そのものが目的を満たそうとはしない。ああ、浅はかなことをしてしまった。合わせる顔が、ない。徳川は、彼女から少し視線を逸らした。

「ありがとう」

でも彼女は、そう言って嬉しそうに笑っている。どうして、お礼なんか言うのだろう。俺の感情をただ、吐露して困らせただけなのに。徳川はただ、戸惑った。

目があったときに、彼女は照れくさそうに笑うようになった。

 


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