彼女と、茉莉さんと付き合うようになってからというものの、周りの対応が少し変わったように思われる。それが特に顕著になるのが、このUー17合宿だ。選手たちだけではなく、コーチまでもが、やたらと探りを入れてくる。
しかし、それに嫌悪感を感じないのは、彼らが自分たちを祝福してくれているのが、感じ取れるからだ。


午後の練習が、終了した。廊下を歩いて、自室へと戻ろうとしていた時、徳川の目の前に見慣れた人物が現れた。

「ああ、徳川くん。彼女さんとは順調ですか」

先に挙げた、探りを入れてくる一人が、この男、大和であった。徳川と同じ高校3年で、1軍のメンバーの一人である。

「ああ。合宿所内でも、よく顔を合わせるしな」

徳川はそうは答えたが、実際は少し問題があった。

ここ数日、徳川が彼女と寮内で遭遇をしても、彼女は挨拶だけをして、その場から去ってしまう現象が起きていた。二人が付き合うようになる前も、付き合うようになった後も、いつもは立ち止まって、少しだけ話をしていた。なのに今は、それがない。
忙しいのだろうか。そう思ったが、いつもは共にしている昼の休憩時間にも、彼女は徳川の前に現れなくなっていた。避けられているのでは、ないだろうか。そう徳川が疑ってしまうほど、彼女の態度はよそよそしいものだった。


「とても可愛らしい方ですよね、彼女」

その言葉に、徳川は彼に少し鋭い視線を送るが、彼は全く動じなかった。朗らかな様子で、また言葉を紡いだ。

「あ、たしかお昼に、1番コートの人と一緒にご飯を食べていましたよ。楽しそうに」
「1番コートの奴と、か?」

お昼、という言葉に、彼はぴくりと反応をした。姿を見ないと思っていたら、2軍の方に居たのか。

「ええ。あ、でも、かなりの人数の方と一緒に食べていましたよ。1番コートの人たち全員と、だと思います」

その言葉に、徳川は安堵した。彼の脳内に浮かんでいた映像は、2軍の誰か1人と彼女が、2人きりで食べているものであった。彼の付け加えた情報により、その食事の映像とニュアンスが変化した。

「その言い方は、わざとか?」
「何のことでしょう?」

ニコリと笑う彼は、どうも食えない。徳川は、はぁ、とため息をついた。

「入江先輩もお前も、人の心理を読むのが上手いな。俺にはそう言った力はない」
「でも徳川君には、それが要らないくらいの実力がありますから」
「ここを伸ばすしかないだけだ」
「僕も、ここを伸ばすしかないんです」

所詮、ないものねだりということか。テニスでは、今は必要ない。欲しいのは、日常生活で、だ。徳川はそう思いを巡らせた。

テニスは、コートに立つ者の目指す目標が一つだ。ただ勝つ事。しかし、日常生活、特に恋愛では、相手がコートに立ち続けてくれる確証など、どこにもない。相手が自分を好いたままでいるか、落胆されていないか、もっと好きになってもらうにはどうしたらいいのか。そうして、同時にたくさんのことを考えなければならない。
テニスだけをしてきた徳川には、そのハウトゥーが分からないのだ。目の前にいる彼や、彼の先輩である入江ならば、きっとこんな心配はせずに居られるのだろう。そう思うと、自分が少し情けなく思えてしまうのだった。

「心配しなくても、彼女はあなたのことが好きですよ。見ていて眩しくなるくらいです」

俺のそんな心情は、彼にはお見通しだったようだ。そう言い残して、彼はその場から去っていった。

 


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