私は大学2年、徳川くんは高校3年になった。今年も、私と徳川くんは夏からUー17合宿に参加している。徳川くんは1軍の選手として、私はマネージャーとして、だ。
毎年、頑張ってくれているご褒美です。そう言って今年から、齋藤コーチと黒部コーチは、トレーナーになるために必要だということを少しずつ教えてくれるようになった。プロのコーチとして活動をしているお二人から、沢山のことを吸収出来たら、私にとってはかなり大きな収穫となる。アルバイトとして合宿のお手伝いをしながら、二人から課せられる課題たちを、私は日々こなしていた。そこそこ忙しいけれど、充実した日々が連続していた。


7月の中盤に差し掛かったくらいのある日、齋藤コーチと茉莉は、お茶をしていた。茉莉の労働時間は、朝の9時から夕方の6時までの9時間だ。しかし、昼には1時間半、3時には30分の休憩が与えられる。今は、3時の休憩時間の最中であった。この休憩は短いため、茉莉はだいたい、齋藤コーチとお茶を飲みながら雑談をしている。

「デ杯が行われますね」

齋藤は、柔らかく笑ってから、紅茶を机の上に置いた。デ杯とは、4年に一度行われる、各国対抗でテニスの試合をする大会だ。伝統のある大会で、スター選手も数多く参加している。

「そうですね。しかも今年は有明の会場で、スペインと当たりますよね」
「ええ。今年のスペインはスター選手揃いですから、見応えがありそうですね」
「スペインはペダルを筆頭に、世界ランク1桁揃いですもんね。一般販売の日は、戦争になりそうです」

頑張らないと。そんな彼女の言葉に、齋藤はピクリと反応をした。

「行きたいですか?」
「はい。その、徳川くんと、一緒に行く予定です」
「デートですね」
「そう言われると、何だか恥ずかしいです」

彼女は両頬に、手を当てた。何とも初々しい反応に、齋藤はくすりと笑った。

「私としても、キミと徳川くんには、あの試合を見て頂きたいですね。きっと彼も、いつかあの場に立つでしょうから」
「が、頑張ってチケット取ります」

どの方法で取るのが、確実だろうか。そろそろ、先行販売が始まるかもしれないから、チェックをしておこう。そんな事を考えながら、彼女は齋藤のいれた紅茶を口にした。

「その前に森下さん。私と、交渉をしませんか?」
「交渉、ですか?」

彼女はカップから口を離した。それを胸の高さで持ちながら、齋藤の目をじっと見た。

「ええ。キミにとっても徳川くんにとっても、悪い話ではないはずです」

齋藤は、にこりと笑った。

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