テニスをしてる後ろ姿を見ているだけで、胸がいっぱいになっていた。しかし今では、こっちを向かないかな、なんて期待をしてしまう。貪欲になってしまう自分に、嫌気が刺す。
ずっと想っていると、気持ちを収納するところの容量は増えていくみたいだ。そして余ったスペースを、新しい感情が埋めていく。

そんなことを考えていたら、彼がこっちを向いた。そして、視線がかち合った。手を振ると、少し照れくさそうな顔をして、手を一瞬だけ上げてくれる。こんな些細なことで、どうして幸せになるんだろうか?スペースが、また埋まった。

茉莉は、大学1年生になった。大学に入ってから初めてのテスト期間が終わり、秋がやってきた。多少の予定はあるが、9月は長期休暇中であるため、かなりの暇がある。
大学生になり、何かとお金が入り用になった。何かアルバイトしようかな、と考えていた。

「森下さん。アルバイトをしませんか?」

彼女が、Uー17合宿のコーチを務めている齋藤至からそう電話口で誘いを受けたのは、そんなときのことであった。

「アルバイト、ですか?」
「ええ、アルバイトです。やって頂く内容は、去年やって頂いたこと殆ど変わりません。働いていただく時間が少し増えますが」

去年、Uー17合宿に手伝いに行っていたときに、スポーツトレーナーを目指している、と言っていたためだろうか。今年の2月に『また機会があったら宜しくお願いしますね』と言われてはいたが、まさか本当に誘いが来るなんて。断る理由もないし、彼女が目指す夢のことを考えれば、これは寧ろ有り難い話である。彼女は、快諾をした。
9月は月曜から金曜まで泊まり込みで、大学が始まる10月から2月までは土日のどちらかで日帰りで。こういうシフトで、アルバイトが決まった。

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テーマ「人外ファンタジー」
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