「茉莉さんの指なら、折れてしまうかもしれませんね。細いですから」

話題をそう転換すると、彼女は手をぶんぶんと横に振った。

「いやいや、細くないよ!徳川くん、ちょっと手をこうやって突きだしてみて」

あ、手のひらをこっちに見せるように開いてね。そう言って、彼女は、パーの形にして、右手を前に突きだした。

「こう、ですか?」

徳川は、言われるがまま、左手を前に突きだした。自分の左側にいる彼女に見やすいようにするためである。
しかし、手のひらを見せるように、という指示があったため、まずは手のひらを空に向けた。そして、彼女の視界に入るように、彼女の居る方に手を少し寄せ、位置も少し下げた。

「うん。ちょっと失礼」

彼女の右手が、徳川の手のある位置まで伸びてくる。そして、徳川の手のひらの上に、彼女の手のひらが乗った。

手、小さいな。徳川がそう感じた通り、彼女の手のひらも、指も、彼のそれよりも小さく、そして細かった。

「あれ、徳川くんのが細く見えてたんだけどな」

重なった指の辺りを凝視し、彼女はそう漏らした。こうして比較をすると、彼の発言が正しかったことが立証されてしまった。彼女の右手は、彼の左手の上にすっぽりと収まってしまっている。

「手の大きさに比例して、そう見えているのかもしれませんね」
「そっか。でも、徳川くんって手大きいんだね。やっぱ男の子なんだ」
「そうですね、一応は」

自分が何の気なしに発した言葉を、彼女は噛み締めた。男の子、という単語を、やけに意識してしまう。彼女の今の状態が、頬に熱を持たせた。

「それにしても、徳川くんの手あったかいね。いいなぁ、体温高くて」

手を少し浮かしたり下ろしたりと、離したりくっつけたりする動作を数回繰り返した後で、彼女は手を離した。そして、そう彼の手への感想を述べた。

「茉莉さんの手が、冷たすぎるだけでしょう」

徳川は、彼女の手の小ささだけではなく、その冷たさにも驚いていた。本当に血液が通っているのかと不安になるほどに、彼女の手は熱を持っていなかった。

「まぁそうだけど、ね。冷え症がなかなか治らなくて」

ハー、と息を吐いて、彼女は手を温める動作をした。

「ダメだ、息も冷たい」

そう言ってぶるりと体を震えさせた彼女を見て、徳川は自身のコートのポケットに手を差し入れた。そして何かを取り出し、彼女に差し出した。

「少し大きいでしょうが、これ、どうぞ」

それは、手袋であった。徳川は、彼女の近くへその布を持ってゆく。

「え、そんな!悪いからいいよ」

彼女は両方の手のひらを彼に突きつけ、それを拒絶した。

きっとこのままでは、受け取ってもらえないだろう。徳川はそんな彼女の拒絶を無視して、その腕を優しく掴み、手袋を被せた。まずは右手を、続けて左手に素早く被せる。そうして、彼のミッションは完了した。


「丸形の手袋、なんだ」
「ええ。市販のものは、指の長さが合わないので」
「ありがとう、徳川くん」

彼女は、彼に向かって笑顔を送信した。

手のひらよりも、捕まれた箇所の方が、熱を持っている気がする。おかしいな、と思うけど、何となく理由はわかる。触れられたことが、恥ずかしいのだ。彼女は、先ほどの熱を分散するかのように、手のひらをグーパーした。熱は一向に引こうとはしなかった。

そういえば。彼にこうして借りを作ったからには、自分も何かをしなければ。ふとそんなことを考えついた彼女は、自分が首にかけていた存在に着目した。

 


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