帰り道の途中にある公園には、多くの机とベンチがある。休日はそこでピクニックをしている家族連れも多い。しかし今は、平日の夕方である。子供たちはちょうど帰ってゆく時間だ。その空いた空間で、彼らは少し話をしてゆくことにした。そこまでは、学校から約10分ほど掛かる。彼らは、話をしながらそこへと向かった。
「あ、課題の図書にね、筋力を効率的に付ける方法についても書かれてたの。徳川くんは、いつもどういう筋トレしてるの?」
自分の右側を歩いている徳川に、彼女はそう問いかけた。
「一般的なものですよ。腹筋、背筋、走り込みなど、ですね。あとは定期的に、指で逆立ちをして、筋肉のバランスを見ています」
「指だけで逆立ち!?」
常人では考えられないその行動に、彼女は目を丸くした。
「ええ。たぶん、俺だけじゃなくて、かなりの選手が出来ると思いますよ」
彼女の表情が、少し青みを帯びた。徳川はそれを不思議に思い、彼女の体調を尋ねようとした。しかし、それより先に彼女が質問を飛ばしてきた。
「指、骨折しない?」
心底から心配する声色で放たれた質問は、少し見当違いのものであった。徳川は、口元を右手の手のひらで覆い、人差し指を唇にあてた。
「大丈夫です、折れませんよ」
細められた目元と、彼の指からこぼれた息で、彼女は、自分の発言が彼の笑いのツボを突いたことを認識した。
笑った。可愛い。その感情のせいで、また胸が少し高鳴った。
「どうか、しましたか?」
彼の顔をじっと眺めていたせいか、彼が怪訝そうな様子でそう尋ねてきた。
「徳川くんって、笑うと可愛いよね」
そう本心を告げると、彼は少し眉尻を下げた。
「笑わせてるのは、茉莉さんでしょう?」
困惑しているような表情を浮かべていたが、その声色は優しかった。そして徳川は、口元にあてていた手を、背後に回した。可愛いのは、あなたですよ。そんな言葉を、手に包み込んで、後ろに隠す。
「だって、心配で」
そう彼女は弁解を試みた。しかし、彼女が本心から心配してあの言葉を発したのを、徳川は既に理解していた。
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