そうだ、きっと私があまり恋に興味がないのは。徳川くんに、トキメキを吸い取られているからなのかもしれない。

みんなが素敵だと言う人を、格好いいと感じるし、あんな彼氏が居たらきっと素敵だろうな、とも思う。でも、一番ドキドキするのは、徳川くんと居るときなんだ。他にたくさんの男の子が居るのに、どうして私は、徳川くんにしかこうならないんだろう。ああ、どんどんと、憧れが悪化してゆく。私の脳は、彼に会うこと、彼と会話をすることを欲しているのだ。

彼女、森下茉莉は、自分の右側を歩く徳川の端正な顔を、ちらりと見た。やはり、駄目だ。胸の中が、熱い。きっと心に色が付いたのなら、真っ黒になってるだろう。焦げるような熱さに晒されているのだから、そうなってしまうはずだ。

現在、茉莉と徳川は、帰路についていた。彼らは家が近い位置にある。そのため、帰宅時間が重なるときは、こうして帰路を共にしている。わざわざ待ち合わせたりはしないのだが、同じ時間帯に昇降口に居れば、茉莉は徳川の姿を見つけて話しかける。そして、一緒に帰る流れになるのだ。
茉莉が、徳川を見つける頻度は、かなり高かった。徳川は同学年の男子に比べて背が高いから、目に付くのは当然である。しかし、原因がそれだけではないことを、茉莉は認識していた。

さて、今は、年が明けて、学校が始まってから間もない頃である。茉莉をはじめとする三年生は、自由登校となっていた。しかし、推薦で大学が決まった者や、既に就職の決まった者は、終了式までは毎日登校することとなっている。茉莉も、その一人であった。

徳川は、2月までUー17合宿に参加している。しかし、期末試験が近づいてきたこの時期は、一時的に合宿を離脱し、こちらに戻ってきていた。


「そう言えば、茉莉さんは、どこに進学されるんですか?推薦を貰ったと聞きましたが」

徳川が言葉を発すると、彼の前が白に染まった。真冬である今は、かなり気温が低い。彼の熱が、空気を白に染めたのだ。

「あ、そっか、言ってなかったね。青学だよ。青学の、スポーツ科学科」

推薦が決まったのは、彼がUー17合宿に行っている時であった。茉莉はUー17合宿に週末だけ手伝いに言っているため、彼に会うこともあった。しかし、ほんの数回、しかも短時間であったため、なかなかこの話題を口にすることはなかったのだ。

「青学というと、青春学園大学、ですか。あそこは設備がいいそうですね。おめでとうございます」
「ありがとう」

彼女が笑むと、彼も表情を少し柔らかくした。一緒にいる時のこの空気が、好きだ。そう感じているのは、茉莉だけではなく、徳川もであった。

「大学に入る準備は、どうですか?推薦入学は、課題が多いと聞きましたが」
「うん、多いよ。レポートがいっぱい出てるの」

彼女は指を折って、レポートの数を数えた。1つ1つの課題の字数が少なかったとしても、その数は少し多いように彼は感じた。

「今は、大丈夫なんですか?」
「うん。もう終わる、ってところまでやったよ」

そう言ってニッと歯を見せると彼は、お疲れさまです、と言って笑った。回復魔法でも使われたかのような感覚が、彼女の中を駆け巡る。

今日、徳川はオフであると聞いた。どうせなら、一瞬でも長い時を共有したい。そう思った彼女は、徳川に、公園に寄って行かない?と提案をした。徳川は、ただ柔らかく笑んで、はい、と答えた。
ごめんね、付き合わせちゃって。そう心中で謝罪をする。先輩という特権を濫用して、徳川を振り回していると彼女は錯覚していた。徳川も同じ気持ちであるとは、知らずにいるのだ。

× 


第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -