時刻は20時を回っていた。部屋で一人寂しく、夕食を済ませた頃であった。彼はマネージャーからこんなメールを受け取った。

今直ぐ、1402室に来るように。

どうやら、マネージャーはその部屋に居るらしい。何か用事があるのだろうか。いつもならばマネージャーが部屋にやってくるのに、珍しい。そんな感想を抱きながら、彼はその部屋にやってきた。

コンコン、とノックをする。すると、扉が開いた。
そして中から伸びてきた手が、彼の手を掴む。そして、ぐいっと中へと彼を引き込んだ。
パタンと音を立てて、扉が閉まった。

何なのだ、一体。彼は、犯人であろうマネージャーに、文句を言おうとした。

しかし、手を引っ張った犯人を知覚した瞬間、彼は目を見開いた。

「こんばんは、レンさん。誕生日、おめでとうございます」

犯人は、今日は会えるはずがないと思っていた彼女、彼の恋人である葵であった。

彼女は、以前彼がプレゼントしたドレスを身に纏っていた。彼女はあまり露出を好まないが、きっと首元が大きく開いたドレスが似合うだろう。そう思って送ったそれは、やはり彼女によく似合っていた。
それ、すごく似合ってるよ。思わず本音をこぼすと、彼女は照れくさそうな表情を浮かべて、ありがとうございます、と礼を述べた。

しかし、この状況に酔いしれる前に、聞くべきことがある。レンを見て楽しそうに微笑んでいる彼女に、彼は問いかけた。

「レディ、これは一体?」

「サプライズです」

「サプライズ?」

「ここは、マネージャーさんの名義で取った部屋です。マネージャーさんは、私が取った部屋にいます。私がワガママを言って、少しの間、マネージャーさんと部屋を交換してもらっているんです」

それは、もし誰かがこの部屋に入っていく彼の姿を見ても、客観的にはマネージャーの部屋を訪問した、という風に見せるためである。
彼女の名義で取った部屋にレンを呼べば、後にそれが見られていた場合に「私は居なかった」などと言い訳ができないからだ。

「玄関でお話するのも何ですから、こちらにどうぞ」

彼女は、彼を中へと誘導した。

少し大きめのシングルベッドの横に、机が置いてある。
そしてその机の上に何か大きめの物体が置いてあるようだ。その物体は白い布に覆われていて、正体が何かは察することが出来ない。

「その白い布をめくってみて下さい」

「一体、どんなものが出てくるのかな」

ワクワクしながら、彼は布をゆっくりと引いた。すると、高さのある赤い機械が、彼の視界に飛び込んできた。

「チョコレートファウンテン。それと、フルーツの盛り合わせだね」

それは、チョコレートフォンデュをやるための機械であった。少し小型で、少人数で楽しむにはちょうどよい大きさのものだ。机の上に置いてあるため、彼女の肩くらいの高さに、ファウンテンの頂上がある。


「前にやりたいとおっしゃってたので、用意しました」

1ヶ月ほど前に彼女と話をしていた時、確かに彼はぽつりとそう彼女に漏らしていた。まさか、覚えていたとは。驚きと嬉しさが共存する不思議な感情が、彼の中に芽生えた。

そんな時、彼女から不意に、こんな質問が飛び出した。

 


「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -