今日は、バレンタインデーである。
世は女の子が男の子にチョコレートを送る日だ。チョコレートと共に、二人は甘い雰囲気を楽しむことだろう。

しかし、彼、神宮寺レンは、そんな一般人の輪には加われない立場であった。彼は、今を時めくアイドルである。とある6人組のアイドルユニットの一員として、活動をしている。彼を想う女性の数は、彼を一般人と評するには多すぎるものであった。

そして、実は今日は、彼にとっては、もう一つ大きなイベントの日でもあった。彼は、今日が誕生日なのだ。誕生日も、一般人であれば、バレンタインデーと同様に、恋人との甘い時間を過ごすものである。

だが、アイドルである彼は、誕生日であるこの日、ファンを集めてバースデーイベントを行っていた。ファンがアイドルの誕生日を、出来れば当日に祝いたいと思うのは当然である。そんなニーズに応えるために、まだ新人アイドルである彼には、誕生日にオフを取ることは認められなかった。

一般人だったら、恋人とデートをし、ついでにチョコをもらって一日を過ごすんだろうな。アイドルという道を選んだことを後悔したことはないが、彼は、少しだけ自分の境遇を恨んだ。

ああ、彼女に会いたい。今日もきっと仕事に追われているだろう恋人、葵に会いたい。
彼の恋人、赤松葵は楽器の製造を中心に行っている赤松音楽社の経営戦略を担当している重役である。

しかし、彼女の元へ訪れるには、パパラッチを振り切らなければならない。イメージが大切である自分にとって、誕生日に彼女に会いに行ったことをスッパ抜かれることは、かなりの致命傷になる。しかも、それだけには留まらない。自分との交際が発覚してしまったら、大手の音楽系会社の重役である彼女に、迷惑がかかる。アイドルとの交際が発覚した重役がいる会社には、アイドルを抱える芸能事務所は寄りつかなくなるだろう。彼女も、イメージを守らなくてはならない立場なのだ。

そのため、今日、彼女に会いに行くことは不可能であった。それでも、恋人に会いたいと思ってしまうのが人間の性である。そんな叶わない願望を抱きながら、彼は今日の宿泊先であるホテルの一室に入った。今日はここで一夜を明かすのだ。
ファンクラブイベントを終えて、彼は少し疲れていた。しかし、気力を回復したい。彼女にテレビ電話くらいはしたっていいだろう。そう考えながら、彼はまず、夕食を取った。

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テーマ「人外ファンタジー」
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