(泣くな、ばか)



彼女はただ、見た目が綺麗なだけじゃない。カメラマンの目を見て、要求されているものを明確に理解する。カメラマンの些細な表情の変化で、今の自分が正解か不正解かを瞬時に判断する。相手が何を考えているのか、察するのが上手い。
そして何より、撮影に関わる全員と、交流を持とうとする。そして撮影に携わるスタッフ全員の顔と名前を覚え、会話も記憶する。次回に会ったとき、彼女はその人間との会話を、次回から引き続いて開始する。そして、濃い人間関係を、複数と持つことが出来るのだ。

彼女の持つ才能は、モデルとして必要なものばかりだ。彼女は、モデルになるために生まれてきた。そう思わせるほど、彼女は才能を生かし、この仕事をこなしている。

彼女が撮影をしているのを観察していると、彼女と目があった。その一瞬だけ彼女は、表情を変えた。撮影用の笑みとは違う、警戒心のない笑みだった。心臓が、跳ねた。


「ゆいちゃん!プリ撮ろう、プリ!」

撮影が終わってからのこのフレーズは、もはや定番と化していた。彼女は、俺の手を引く。

「お前、好きだな。プリクラ」
「だって、モデルっていつやめるか分からないじゃん。ゆいちゃんは読モじゃないけど、読モって、いきなり居なくなっちゃう子が多くて」

彼女の目が、憂いを帯びた。

「そう、なのか」
「うん。いっぱいお別れしてきたから、会えなくなっても寂しくならないようにしたいなって思って。プリなら、形に残るから」

今度は、彼女の瞳が、潤みを帯びた。

「ば、ばか。泣くなよ」

慌ててポケットを漁って、ハンカチを取り出す。それを彼女に押しつけると、彼女は笑った。

「ゆいちゃん、ほんとイケメンだよねぇ」

目から少し涙を落としながら、彼女はそれを受け取った。目に軽く当ててから、彼女は天井を仰ぐ。ハンカチ、洗って返すね。唇を軽く噛んでから、彼女はにこりと笑った。そんな彼女を見て、無意識の内に俺の手は、彼女の頭へと置かれていた。ぐしゃぐしゃと荒々しく頭を撫でてやると、彼女は一瞬目を丸くした。少しだけ赤い目のまま、彼女は嬉しそうに笑った。


 
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