(まさか、こんなヤツに)撮影を終えて、俺たちは落書きコーナーに入った。次の人が入ってくるまで、落書きの時間が無制限のままという仕様らしい。落書きを進めていっても、時間はずっと無制限のままだった。どうやら、この機種は本当に人気がないらしい。でも、俺も彼女もモデルをやらされていることはあって、写真の出来はなかなかいい。並んでまで他にいく必要もないんじゃないか、なんて思える。そんなことを考えていたら、隣から声がした。 「ねぇゆいちゃん」 「何だよ」 「ゆいちゃんって、男でしょ」 「な!?」 俺は、ペンを画面から離して、彼女の方を見た。その反応を見て、彼女は確信をしたらしい。 「やっぱり!ゼッタイそうだと思った」 「なんで、だよ」 まさか、彼女に見破られていたとは。知り合いのモデルの中でも、一番ぽやぽやとしていて、鋭くなさそうな彼女に。 「だって、おかしいもん。体つきが」 そうだ、彼女はやたらと仲間の体を触っている。その経験値から、俺の体に違和感を感じ取ってしまったらしい。 「お前、セクハラばっかりしてるもんな」 そう言うと、彼女は、スキンシップだもん、と訂正をしてきた。 「誰にも、言うなよ」 「分かった」 意外と簡単に了承してもらえたことに、少し驚いた。 「で、ゆいちゃんって本名なの?」 「違う。本名は、翔」 「翔……じゃ、翔ちゃんだね。今度から、そう呼ぼうっと」 「あ、現場では呼ぶなよ」 「大丈夫。そこはちゃんと割り切れるから」 彼女はグーを作って、そう力説した。 「お前って、バカだけど空気は読めるもんな」 「空気読めないと、やっていけない商売だからね」 彼女は一瞬、苦笑いを浮かべた。その後で、落書き終わりにしよっか!と話題を変えた。 モデルという仕事は、生き残ることがなかなか難しいものだ。それを分かっているから、彼女は周りのことをよく気にかける。そうして彼女は、読者モデルとして3年も生き残ってきたんだ。 普段はこんなアホなヤツだけど、仕事に対しては、誰よりも真面目に取り組んでいる。そして、努力を怠らない。彼女は、自分と似ている。だから、こうして気を許しちゃうのかもな。そうして俺は、少しずつ彼女に惹かれ始めていた。 ← → |