(ナンパなんざお断りだ)



外へ出て、俺と彼女は、ゲーセンへと歩いていた。その途中で、美味しいと評判のクレープ屋が視界に入った。俺が足を止めると、彼女も足を止めた。

「ゆいちゃん?どうしたの?」
「何って、クレープ、食いたいんだろ?」
「食べたいけど、ゆいちゃんは要らないんでしょ?一人だけ食べるのも寂しいし、今度でいいよ」
「買ってきてくれるんなら、食ってやるよ。一緒に」

俺のその言葉に、彼女は目を輝かせた。

「ほんとに?何が良い?」
「んー、ピザ系ならなんでも」
「分かった!じゃ、そこで待っててね」

そこ、と指示されたのは、クレープ屋の隣にあった、映画館の入り口だった。

「ああ」

そう返事をして、俺はぼーとしながら、彼女を待った。そんなに並んでなかったから、たぶん5分かそこらで出来るだろう。そう思って、地面を見ていたとき。影が、俺の前で止まった。何だ、やけにはえーな。そう思って見上げると、知らない男が二人居た。

「ねぇ、キミ、一人?可愛いね。ちょっと遊ぼうよ」

ナンパかよ。あいつが戻ってきたら、また厄介なことになりそうだな。早く追い返そう。そう思って、冷たい口調で返事をする。

「一人だけど、暇じゃない。どっか行って」
「つめたっ!でも、そんなとこもいいなぁ」
「ちょっとでいいから!ね!」

しつけーな。ちょっと走って撒くか。そんなことを考えていたときだった。

「ゆいちゃん、クレープ買ってきた、よ……あれ、なにやってるの?」

ああ、来ちまったか。やばい、とりあえず逃がさねーと。

「お前はあっち行ってろ」

早口でそう言うと、彼女は一瞬だけ肩を震わせた。

「ええと、知り合い?」
「後で説明すっから、一端離れ」

そう言いかけたとき、彼女の肩に、男の手が回された。

「一人じゃないんじゃん。しかも、こっちの子も可愛いし」
「ねぇ、ちょっとだけでいいから遊ぼうよ。ほら、こっちこっち」
「え?ちょっと、やめてください!」

彼女の肩を掴んだまま、男たちは歩きだそうとした。彼女は、両手にクレープを持っているから、抵抗らしい抵抗も出来ずにいる。
俺は、彼女と男の方へとつかつかと歩いていった。そして、男の手を彼女の肩から剥がし、掴んだまま全力で捻った。

「いっ、イテテテテ!」
「これ以上イタい目見たくなかったら、とっととどっか行け」
「なんだよ、馬鹿力!この男女!」
「はいはい、サヨナラ」

そう言って手を振ると、男たちは駆け足でその場を去っていった。

「大丈夫か?」
「う、うん。ちょっとびっくりしたけど、大丈夫」

彼女の口調は、平生のものだった。

「そうか」

ほっと胸をなで下ろすと、彼女はくすくすと笑った。助けてやったのに、なんだよそれ。でも、無事ならまぁいいか。モデル仲間を傷物にしちまったら、先生たちに怒られるってだけじゃなくて、俺もイヤな気持ちになる。こいつは、モデルとして尊敬出来るヤツだから、特にそうだ。変なことで気に病ませたくはない。

「強いんだね、ゆいちゃんって」
「まぁ、昔空手やってたしな」
「空手って……ほんとゆいちゃん、男前だよね」

翔としてはその言葉は嬉しかったが、今は『ゆい』だ。そうか、と軽く受け流した。

「またあんなんに遭遇したら面倒だな。変装するか。帽子、買いに行くぞ」
「はーい。でも、クレープ食べてからね」
「ああ、そうだな」

はい、ゆいちゃんの分。そう言って、彼女は笑顔でクレープを渡してきた。笑顔を返して受け取ると、彼女はまた笑った。不覚にも、可愛いなと思った。


 
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