(外人な訳あるか!)



俺は、謎の美少女「ゆい」として、モデルデビューした。那月が、俺の女装写真を雑誌のコーナーに投稿したのがきっかけだった。最初は、何だよ、と不服に思ったけど、コネを作っておくのも悪くないってことで、俺はモデルとしての活動を始めた。もちろん、性別は隠したままだ。始めたのはいいが、それには思ってもいなかった弊害があった。

「ゆいちゃん、クレープ食べにいこうよ」

撮影が終わった後、ある女が、俺の手を掴んで、ぷらぷらと左右に振って、そう誘う。
彼女は、小鳥遊つぐみ。読者モデルとして、けっこう人気がある女だ。たしか、年は17才。都内の高校に通っているらしい。身長は、俺よりも5cm高い。そして、顔立ちは美人の部類。
そこまではいいが、性格に少し問題がある。まず、やたらと人の体を触りたがる。そして、やたらと人を遊びに誘う。要は人懐っこさの固まりだ。普通に仲良くなる分にはイイ奴だが、俺は性別がバレたらマズい状況だ。出来るだけ、人との接触は避けたい。

「私、今甘いもの控えてるから」

冷たくそう言っても、彼女は引き下がらない。彼女は俺の腰に腕を回して、脇腹のあたりを優しく掴んだ。

「大丈夫だよ。ほら、ゆいちゃん細いし」
「ちょ、触んなって」

彼女の手を引き剥がして抗議をすると、彼女は楽しそうに笑った。

「ゆいちゃんって声ハスキーで格好いいよね。見た目は可愛いのに」
「可愛く、ない」
「その顔も、可愛い」

彼女は、俺に抱きついた。抱きつかれるのには慣れているが、流石に女子に抱きつかれるのは照れくさい。

「いやぁ、仲いいねぇ」

そんな俺と彼女の状況を見て、スタイリストさんがそう感想を漏らす。

「あの、コイツ止めてください」
「こいつとは失礼な。スキンシップだもん」

彼女は、抱き締める力を強めた。でも、那月にされてるような痛みはない。女子特有の柔らかさが、クッションになる。そのせいで、性差をやけに意識してしまって恥ずかしい。でも、無理に引き剥がすと、彼女はまた抱き締めてくる。堂々巡りにしかならないのだ。

「ゆいちゃん、ガンバ!」

スタイリストさんは、止める気がないようだ。

「ガンバって……もういいです」

はぁ、とため息をつくと、彼女は俺を腕から解放した。

「じゃ、クレープはいいから、プリ撮りにいこ?」

お願い!と言って、彼女は両手を合わせた。

「……はぁ、1枚だけな」

そう言うと、彼女の表情がぱぁっと明るくなった。

「見た目は可愛いのに中身はイケメンのゆいちゃんに、見た目は美人なのに中身はアホなつぐみちゃん。良いコンビだよねぇ」

スタイリストさんのその言葉を聞いて、俺も彼女もバッとスタイリストさんの方へと振り向いた。

「可愛くないです」
「あほじゃないです」

俺と彼女が同時にそう言うと、スタイリストさんは笑った。

「主観と客観は食い違うものだよ」

彼女は、首を傾げた。

「シュカン……外人ですか?」
「ばーか」

そう言って笑ってやると、彼女はムッとした表情で、違うもん、と呟いた。


× 
back
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -