テニス | ナノ

リコリス


好きなタイプと実際に付き合う相手は違うとある人は言う。それは確かにそうかもしれんな。でも、俺はそれには当てはまらへん。俺に興味のなさそうなオンナノコを落としたい。落として、俺に嵌り込ませるんや。そのための手段を考え、実行する。そしてその後は、後腐れのないように相手と別れる。あの人はいい人だった、でももう友達に戻るしかない。そう本人にも回りにも思わせる。それでゲームクリアや。
その道筋を辿る上で、一番難易度が高い女っちゅーのが、俺の掲げる「好きなタイプ」やな。せやからそういう女を狙い、落とし、そして別れるようになった。そこまでが恋愛っちゅうゲームや。俺の中で恋愛はそういう位置づけやし、そういう恋愛ばかりしてきた。ほんで今の今まで、100%成功してきた。ああ、パーフェクトやな。


俺がこの大学に入学して1ヶ月くらい経った。仲間が皆、野暮用があるっちゅうて出かけてしもた。仕方あらへんな、と食堂で一人で飯を取っていた時、ある女子生徒が話しかけてきた。講義でよく見かける女子やった。

白石くん、だよね。そう言う彼女に、せや、自分は?と問うと、河原悠里だよ、と愛想よく述べた。河原さん、どないしたん?そう問うと、にこりと笑うてこう切り出した。

「白石くんのこと、入学した時から気になってたの。こんなに私の好みのタイプにぴったりな人を見つけたの、初めてで。だから、仲良くなりたいなって思って」

ほぼ初対面の人間に、恥ずかしげもなく彼女はそう言うた。その発言が聞こえてしもたらしい周りの人間は、驚いた様子で、彼女の方をチラチラと見とる。
せやけど、俺は大して驚かずにおった。そらそうやろな、俺は、かなり器量ええし。そないな本音は殺して、俺は困ったような表情を作った。

「はは、そら光栄やなぁ」
「やっぱミステリアスだね、白石くんって」
「そうか?考えてること、よお表に出とるって言われるんやけど」
「何か、化学式みたいなんだもん。こう来たらこう返す、みたいな」
「ちょい待ち。自分、そないに俺のこと見てたん?なんや照れくさいな」

話題をさりげなく剃らすと、彼女は頬に両手を当てた。

「だって、白石くんかっこいいから。本当に、顔が好みどストライクで」
「ちゃんと中身も見んと、悪いオトコに騙されんで」
「そういう人は、悪い人じゃないよね。だって、騙す気があったら、警戒させるようなこと、言わないでしょ?」
「裏の裏をいくかもしれんやろ?」
「まぁ、白石くんになら、裏の裏をかかれてもいいよ。むしろ、本望」

彼女は終始、俺の目を見て、笑んでいた。

初めに彼女の笑顔を見たときに、俺が感じたものは、「不愉快だ」という類の感情やった。ほんで、それは今も全く変化を見せん。ここまで拒否反応を示すのも珍しいわ。それほどに俺の脳は、彼女を排除したがっとる。
せやけど、そないな脳に反して、彼女の笑顔は、声は、離れようとせんかった。

もしかしたら、彼女の笑顔は、自分にとって毒なのかもしれん。せやったら、今の状態は、毒が血液に乗って全身に回っとる状態なのかもしれんな。このままやと、いずれ毒は全身に浸透し、結果、取り除くことは難しくなってまう。

ああ、解毒剤を作らんとな。ほんで、これ以上毒を与えられんように、彼女から笑顔を奪わんと。致死量に至る前に、俺が俺を失う前に、はよう。

「今日の夜とか暇?よかったら飲みに行こうよ。場所は探しておくし」

イエスと言うまで、逃がさないよ。まるで自白を強要する刑事のように、彼女はそう圧力をかけてきよった。
ここは食堂や。別に逃げようと思えば何処からでも逃げられる。せやけど、俺は解毒剤を作らなあかん。そのための資料を、毒である彼女から得なあかんねや。

俺は、彼女の誘いに乗ることにした。

「分かった。今日の夜は暇やし、飯でもいこか。せやから、今は解放してくれへん?講義始まってまうし」

そう言うと、彼女は嬉しそうに笑った。この上なく、幸せそうに。ああ、せやから、毒を与えんなっちゅーてるやろ、あほ。また毒が蓄積されてしもたやん。そんな本音は、やっぱり言わんでおいた。また後でねー、と手を振る彼女に、俺はピラピラと手を振った。


今日、彼女とこの後に会うて行うべきことは、彼女に、俺に対する不信感を持たせることや。ほんの少しでもええ。それで何とか、これ以上毒を与えられる事態を避けられるはずや。彼女が俺を警戒して、笑わんようになればええ。

ほんで、俺は彼女が持つ毒を暴かなあかん。

人がある毒に対して解毒剤を作る時には、毒の正体を特定せなあかん。俺の体に、毒が残ったままでおるのは、彼女に対する嫌悪感の正体が分からんからやろ。彼女の毒を解毒をする方法が分からんから、排出されんまま体内に残っとるんや。
まずは正体を特定すれば、俺はきっと解毒剤を作ることが出来るはずや。


今日一日で、この状態から解放させよう。ほんで俺は、俺の状態まで回復せなあかん。


そして彼は、脳内でシミュレーションを始めた。


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〜2011/3/14までの拍手お礼。

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