齋藤コーチ
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(書き掛けの齋藤コーチ夢ネタを置いときます。いつか書きたい)
彼の指が、手のひらが、私の手首を覆う。そしてそのまま、ベッドへと重力をかけた。彼の手は冷たかった。アルコールが回って上昇した体温が、彼の肌に吸われてしまいそうだ。彼が覆い被さる様子が、ぼやけた世界の中に映る。「齋藤、さん」そう名を呼ぶと、彼は至極楽しそうに笑った。
「お酒には弱いんですか?」
ああ、度数が高いものなんて、選ぶんじゃなかった。彼に酒を飲ませる際、自分も勧められることを、想定していればよかった。
意識はぼやけるし、体は言う事を聞こうとはしない。それでも感覚だけは生きているから厄介なのだ。そして、酒によって理性というストッパーが外された今、私の気持ちは決壊をしてしまうかもしれない。決して言うものか。私はただ、彼を手に入れたいだけなのだ。私が傷ついてしまうかもしれない道は、歩みたくはない。
「やめて、ください」
彼は、私の両手を、片手で押さえ込む。動かしたくても、私の体は指示には従わなかった。従ってもきっと、ここからは逃れられないのだろうけど。
「こうされたかったんでしょう?」
意地が悪そうに笑って彼は問う。私はただ、ゆるゆると首を横に振った。
私がしたかったのは『工作』だ。酒に酔った彼が、私に手を出してしまった。そう誤解させるシチュエーションを、作り出したかった。
「キミが僕に酒を盛って、何をしようとしていたのか。それくらいは、分かりますよ」
「じゃ何で、分からないフリをして…」
彼は、私から勧められた酒を、何も言わずに飲んでいた。策略を知っていたのならば、その時点で断ればよかったのだ。何故、知らないフリなどをしていたのか。
「え?フリなんて、してませんよ」
たしかに、振り返ってみたら、確かに彼はそんな真似はしていなかった。その話題に、触れていないのだ。言及をしていないのだから、イエスもノーも判明はしていない。
「僕はキミが酒を勧めて来たから、飲んだだけです。でも一人では寂しいから、一緒にキミにも飲んでもらったんですよ。そしたら、勝手にキミが先に潰れてしまった。ただ、それだけです」
アルコール度数15%の酒を、私はグラス半分以上の炭酸で割って4杯飲んだ。彼は、割らずに飲んでいた。同じペースで飲んでいたから、体に回っているアルコールは、彼の方が多いはず。なのに何故、彼は平生と変わらないのか。ここまで酒に強いとは、計算外だった。
「それで、キミは工作に失敗したんです」
そんなの、言われなくても分かり切っていることだ。アルコールで制御が緩んでいるのせいなのか、私の目頭は直ぐに熱くなった。いつもは、こんな事はないのに。こんなところを、彼には見せたくないのに。アルコールは、私から制御方法を奪ってしまったようだ。
「でも、工作の動機は分かっています。キミは、僕を手に入れたかった。だから、工作をした」
かなり深部まで、彼は見透かしていたようだ。
彼女は反論もせず、ただ下唇を噛んだ。
「でも、工作なんか使わなくても、僕を手に入れる事は可能なんですよ?キミが素直にさえなれば、ね」
その言葉に、彼女は目を丸くした。
「齋藤さんは、私のこと、好きなんですか?」
そう問うと、彼は、あははと楽しそうに笑った。
「それは秘密です。まずはキミの内心を聞いてから、でしょう?」
そんな事、言えるものか。言えたのならば、こんな工作なんかしやしない。彼女は、彼を睨み付けた。
「まぁ、据え膳を食べてから、ゆっくりと聞くことにします」
彼の大きな手が、彼女のシャツの首元のボタンにかかった。彼女は、観念をしたかのように、ゆっくりと瞼を下ろした。
(低温火傷)