「…どうして、助けた?」
うろたえながら呟いてしまったのを見逃して欲しい。
みっともなく目を右往左往させながら言ったら、
意味不明の働きをした仙道はにやりと笑った。
「お言葉だねぇ」
しかしながらこの男、仙道ダイキこそが原因だ。
この俺の挙動不審の。
「礼を言われるならまだしも、詰問される覚えはないけど?」
そう、仙道ダイキに俺は今日この時「借り」ができてしまったのだ。
今俺たちがいるスラムの状況を見れば明らかだ。
「一応聞くが…お前が仕向けたわけじゃないんだな?」
「俺ならもっと骨のある奴を差し向けるけど?」
スラムに似つかわしくない死屍累々とした輩。
それはスラムで一人になった俺を襲ってきた連中で、
ふいをつかれた俺は流石に怪我を負うところだったのだ。
「…疑ってすまねぇ」
「それより別に言うことがあるんじゃないかい?」
にやにやと嫌な笑いを顔に張り付けた仙道が俺へと近付く。
思わずといった風に後退すれば既に壁際。
それに構わず仙道はさらに俺へと詰め寄る。
仙道の顔が今にもくっついてしまいそうなくらいに近付いて、顔を背けた。
「なあ、郷田ァ」
ふっと仙道の息が耳へとかかる。
それにびくりと背中が折れ曲がる。
「あ、」
それは思わず出た今まで聞いたことのない自分の声。
「あ…その声、なんだい?」
愉しげに眼を細めた仙道が俺の声を真似する。
そして仙道は続けようとした。
その言葉がわかってカッとなる。
「もしかして、感じた「あ、ありがとうっ!」
その声を遮って言葉をつづけた。
うまく繋げられたとほっとしていると目を丸くした仙道が笑いだす。
「な、なんだよ」
「…まあ、今日のとこはいいよ」
「は?」
ひらり、と軽やかに仙道が俺から離れる。
そして大きく空いたスラムの壁の穴から出て行った。
…一言聞き逃せないことを言い放って。
「次はもっと色っぽく頼むよ」
嵐の過ぎ去ったあと壁に背を預けたまま座り込んだ。
そしてふと思う。
「アイツ、なんで二中に居たんだ…?」
拍手お礼一種
(断戦/仙郷)
20111215